2019東日本インカレ男子個人優勝/川東拓斗(国士舘大学)

じつは連覇である。

1年前の東日本インカレでも、川東拓斗は優勝している。

しかし、そのことをあまり意識しなかったのは、彼が1年前の優勝を、その直後から「カウントしていない」感じだったからだ。

1年前。

川東は3年で、1学年上に国士舘大学の先輩である福永将司がいた。

稀代の努力家と言われた福永は後輩からの信頼も厚く、川東も当然、福永に対しては尊敬の念を抱いていたが、こと試合となると、「たとえ尊敬する先輩相手でも負けたくない」という気持ちが表に出ていた。

そして、東日本インカレでは、福永が4位に沈み、川東が勝ったのだが、いつもならあり得ないミスで福永が自滅した形だったこの試合での「勝ち」は川東が目指していた「勝ち」とは違っていたのだろう。

彼は、東日本インカレが終わった直後から、全日本インカレ、そして全日本選手権でこそは、しっかりと福永に、もちろん他の選手にも勝つことを、目指していた。

「東での福永先輩はパーフェクトではなかったので」と、そこでの勝ちは、勝ちではない。ノーミス勝負で勝ってこそ、本当の優勝だと彼は言っていた。

しかし、全日本インカレと全日本選手権では、福永がこれ以上はないくらいの演技で勝ち切った。

言ってみれば東日本での負けを教訓にし、糧にした福永が2018年を自分の年にした、ようだった。

川東は、全日本インカレ4位、全日本2位。

東日本インカレ以降は、福永を上回ることはできなかった。

 

勝った記憶よりも、負けた悔しさのほうが強く残る2018年だったのではないかと思う。

おそらく、東日本インカレでは自分が勝ったんだということは、川東の記憶からは抹消されているんじゃないか。

そう思うくらい、今回の彼は挑戦者だった。

このシーズンオフに脚を傷め、3月の新潟演技会直前に悪化させた。

回復に時間がかかったことによる不安もあったと思う。

4年生としての貫禄、すでに全日本上位にいる選手ならではの存在感は十分だが、「自信満々」ではない。

今大会の川東はそんな風に見えた。

もしかしたら、自分の中にある不安を押し込めようとしているのか。そんな空気も感じられた。

 

それでも、実際にフロアに立ってしまえば、威風堂々。いつも通り、空気を変える演技を見せた。

1種目目のスティックは圧巻だった。脚の故障があったことを思えば、そんなに高く跳ばなくてもと思うような高さがあり、滞空の長いタンブリングも健在。得点も18.175と、連覇を予感させるスタートだった。

しかし、2種目目のリングでは、大きなミスこそはなかったが、やや危なく見えるところがあった。やはり脚が痛むのか? と思われたが、それでも踏ん張って17.950をマーク。これは、この種目ではトップとなる得点だった。いつもの彼の演技ではない。万全の演技ではなかったと思う。それでも、34選手の中の頂点に立つくらいに、今の彼は地力で勝っていたのだ。

脚が完調とは思えなかっただけに、2日目のロープが案じられたが、冷静に丁寧に乗り切り、17.925。これも満足のいく演技ではなかったのではないかと思うが、それでもトップの得点だ。クラブではきっちり18.000と18点台にのせ、4種ノーミス。終わってみれば当たり前のように優勝し、連覇を成し遂げた。

大会の帰路、山田監督(国士舘大学)に許可をいただき、新幹線の中で、川東に話を訊くことができた。

予想はしていたが、

「優勝できたのは嬉しいですが、満足いく出来ではないです。」

という言葉が一番に出た。

「怪我があって間に合うかどうか厳しい状態だったので、身体と相談しながらできることをコツコツとやりながら、本番に間に合うようにしてきましたが、課題も不安もたくさんありました。」

なにか様子がおかしかったリングの演技については、

「最初のポーズで片脚がつってしまって。タンブリングでは両脚がつりました。動きの質を落としてなんとか対応しましたが、自分としては納得はしていません。」

と言う。連覇という栄光を手にしたはずだが、昨年に続き、心から喜べる優勝、ではなかった。

「それでも連覇はできた。そのことは良かったですが、去年は東日本インカレ優勝のあと、勝てていない。あくまでここは通過点だと思います。」

昨年の悔しい思いを、彼はやはりよい意味で引きずっている。忘れないようにしている、のだろうと思う。

東日本インカレを制したことで、全日本インカレ、全日本選手権との3冠もありえる? と水を向けてみると、

「勝ちたい、という気持ちは強くあるのですが、優勝だけにこだわっているのではなく、本来自分が信じて、ずっとやってきたこと、動きを意識してその質を上げていけば、後から優勝はついてくると思っています。

 自分の良さ、武器は徒手しかないので、誰もできないところまでそれを究めていけるかということと、試合でどこまで挑戦できるかというのが一番大事だと思っています。

 優勝したい、日本一になりたい、ということよりも、純粋にもっとうまくなりたい、という思いで練習に取り組んでいます。その結果が、優勝という形になる、というのが自分の理想です。」

川東に新体操の話を訊くと、いつもとても饒舌に答えてくれる。

この日も、疲れてもいただろうし、優勝した大会が終わってからの移動中など、仲間とバカ騒ぎのひとつもしたかっただろうと思う。

それでも、こうして車両を移動してまで、質問に丁寧に答えてくれる。こういうところが、彼が新体操の実力だけでなく、多くの人から慕われ、かわいがられる所以だろう。

「オフシーズンには、全国あちこちに指導によばれて行ってました。

 よんでもらえるというのは、自分の新体操や自分を信頼してもらえているのかな、と思い、どこに行っても同じ熱量を持って教えてきたつもりです。

 自分も高校生のとき、そうやって来てくださった廣庭さん(廣庭捷平)や木村さん(木村功)に教えてもらったことがとても大きかったんです。擦り切れるくらい観ていたDVDの中の人が、目の前にいる! と。自分が教えたことで、少しでもうまくなってくれたら嬉しいです。」

 たしかにそうだった。

 鹿児島に来ていたときの彼の指導ぶりを見たが、まさに「熱量のある」指導だった。

 休みなく動き続け、相手が高校生で、まだ実績のない選手であっても、手抜きなく妥協なく伝える。そして、見本で動いて見せるときも、模範演技のときも、大会本番の演技さながらの全力、を見せていた。

 その「熱」は、どこからくるのだろうか。

「自分の演技スタイルは、今のルールとは相反している部分もあると思います。それでも、今さら自分のスタイルを無理に変えると、これまで培ってきた自分の良さが活きないと思うし、それでは自分の新体操ではない、と思います。

 少しずつですが、自分の新体操への手ごたえも感じていて、これをもっと究めていきたいと思っています。究めることができれば、自分が追い求めてきた演技ができると思うし、それができたときに、勝ちがついてくると思っています。」

 そうなのだ。

 川東拓斗のもつ「熱」は、新体操に対する愛から派生している。

 そして、その彼が愛してやまない「理想の新体操」は、もしかしたらやや時代に逆行しているのかもしれない。

 勝つことだけを考えるならば、それが不利に働くこともあるかと思う。

 それでも、彼は、彼の信じる「理想の新体操」を自らが体現し、それで認められたい、と渇望している。

 

 「3冠」に向かっては、まだ第一歩を踏み出したばかりだ。

 それも、肝心の演技は、満足できるものではなかったと彼は言う。

 ならば。

 残りあと2試合では、きっと。

 見せてくれるに違いない。

 「ああ、新体操ってこういうものだった。こういうところがいいんだよね」と誰もが思う、そんな演技を。

 期待したいと思う。

 

 TEXT:Keiko SHIINA      PHOTO & INTERVIEW:Ayako SHIMIZU(写真提供:ビデオアルバム協会)