川東拓斗(国士舘大学)~第71回全日本新体操選手権

第71回全日本新体操選手権における男子のMVPをひとり選ぶとしたら、じつは彼なんじゃないかと思う。
3日間にわたり、4種目8演技をただ一人、すべてノーミスで通し、すべてを18点台にのせた選手。
 
川東拓斗(国士舘大学)だ。
 
 
今大会の試技順1番だった彼の最初の種目・スティックは、「優勝の予感」さえも刻み込むようなすばらしい演技だった。
いきなり会場の空気を自分ひとりのものにしてみせるような凄みと同時に、澄みきった美しさを見せつける演技で、まず18.175。
点数が出にくいといわれる最初の演技者としてはかなりの高得点だ。
 
2種目リングでも、体操の大きさ、深さと手具操作の面白さが絶妙のバランスで噛み合った演技を、空中をきるような美しいつま先を見せつつ、演じ切り18.300。
この演技には穴が感じられず、「無双感」があった。
今年の川東拓斗は、強い!
前半2種目でそう宣言してみせた。
 
しかし、初日首位に立ったのは、国士舘大学の先輩である福永将司だった。
今シーズン前に話を聞いたとき、川東は、福永のことをこう言っていた。
 
「新体操だけじゃなくて、いろんな面ですごい。何をとってもすごい人で、尊敬しています。
こんなに尊敬している人は初めてです。
近くにいられて良かったと心から思います。」
 
そこまで尊敬する先輩に負ける分には、本望かとも思うが、シーズン前に川東はこうも言った。
 
「今年度の最大の目標は、ALL JAPANで総合優勝することです。
種目別でもメダルを狙いたいです。
難しい目標だと思うが、自分の可能性を信じてできないことはない、とみています。
昨年は自分としては散々な結果でしたがそれを踏まえて今年は頑張ろうと思います。」
 
尊敬はしていても、やはりライバル。
福永とのガチンコ勝負の様相で個人総合2日目を迎えることとなった。
 
先に演技を終えたのは、福永だった。
すでに今年は、全日本インカレで個人総合優勝をしている福永だが、そのときも「本当の目標は全日本選手権での優勝」と言っていた。
それが達成できそうなところにいる緊張からか、後半種目での福永には、やや硬さが見られた。
大きなミスにはならずまとめたのはさすがだが、ロープ18.200、クラブ18.225。4種目合計73.100を川東は追うことになった。
 
まず、1種目目のロープ。
ここでは最初の投げがやや短くなった。しっかり反応して落下にはならなかったが、18.025とやや点数が伸びず、最終種目のクラブで
福永を逆転するには、18.600以上が必要となった。また、3位につけている臼井優華(大垣共立銀行OKB体操クラブ)も最終種目ロープを残して、54.350と0.175差までつめてきていた。
ロープが臼井の得意種目であることを考えると、クラブで万全の演技をしなければ逆転を許すこともあり得る。
そんな状況で迎えたクラブ。
それはもうただ見とれるしかない圧巻の演技だった。
 
 
正直に言えば、彼は昔からこういう良さは持ち合わせた選手だった。
見る人の心をつかむ美しい体操のできる選手、なのだ。
だが、このとき彼がそこに描いて見せたのは、「ただ美しい」のではなく、どこまでも美しく、そして強く、大きく、巧い。
有無を言わせぬ演技だった。
さまざまな個性が咲き誇る男子新体操ではあり、それが魅力ではあるのだが、おそらく本質を突き詰めるならば、これが王道なんだろうと感じた。
 
すべてを兼ね備えた選手はなかなかいない。
だから、みんなそれぞれの自分の強みや個性を生かし、伸ばし、上を目指す。
だが、川東拓斗が、このレベルで演じる男子新体操は、無欠だ。
 
得点は18.400。総合得点では、福永にはわずかに及ばなかったが、臼井の猛攻をかわし、準優勝。
優勝を目指していた以上、最高の結果ではなかっただろうが、尊敬する先輩とのワンツーフィニッシュは、限りなく最高に近い結果だったのではないだろうか。
 
 
 
 
川東拓斗は、大学1年生だった2016年の全日本選手権で個人総合3位になっている。
大学1年生としては大健闘だったが、この結果でも彼は、嬉しさよりも悔しさを多く感じることになる。
いわく「とくに印象にも残らなかったのに、たまたまミスがなくて3位になった」そんな評価が聞こえてきたのだ。それはどんなにか悔しかっただろうと思うが、彼はそのマイナス評価を「たしかにそのとおり」だと受け止めた。
たとえ結果はよかったとしても、人がそれを納得しない、評価しないような演技ではダメなんだと考え、試行錯誤を繰り返した。故障との戦いもあったが、それ以上に、自分の演技に必要なものはなにか、を考え抜き、それを手に入れるにはどうすればいいのかと挑戦し続けた。
その結果、大学2年目の2017年は、全日本インカレ5位、全日本選手権10位。
順位だけを見れば、1年目を下回る結果だった。
が、それはあくまでも進化の途中だったのだ。
 
もともと、男子新体操を好きな人ならば、誰もが好きだと感じるだろう、「よい体操」のできる選手だ。この身体、この動きで、ノーミス演技だったらまず低い点数は出ない。
だからこそ、大学1年のときは、あっさり全日本3位にもなることができた。
しかし。
そういう選手だからこそ、貪欲さをもっていなければ、「そこ」で終わってしまいがちだ。
ところが、彼は、言ってみれば貪欲の塊だ。
 
シーズン前に彼はこう言っている。
 
「高校までと違って大学では誰かに付きっ切りで練習を見てもらえるということなどありませんし、それは違うなと自分でも思いますが、せっかくここでやっているんだから、得られるものはどんどん吸収していきたいと思っています。
恵まれた環境やコーチやたくさんの仲間もいて、それぞれのいいところを取り入れていかない手はない、と。
今はそれぞれの先生やコーチが違う観点から教えてくれます。
浪江先輩は動きのこと、自分の苦手なところを突いて教えてくれますし、山田先生は全体の流れを見て客観的な見方を教えてくれます。
大舌先生は審判目線で具体的に減点対象となる箇所を教えてくれますし、斉藤先輩は何故できないのか、何が原因か、どう改善すればいいのかを伝えてくれます。
今、3年になってとても充実しています。
昨年まったく動けなかったときに見えてきたものもあったし、またいつ怪我してしまうかも、と考えると怖さもありますが、リスクを減らすためにはどうするべきか、トレーナーさんや周囲のいろんな人に聞きながら今やっていることを無駄にしないようにしていきたいです。
間違ったことをしているといつかまた怪我してしまうと考えていて、大学入学当初はただがむしゃらにやっていてだけですが、今は《考える》ことが出来ている、と思います。」
 
どんな環境にあっても、数え上げれば不足はいくらでもある。
しかし、彼のように、恵まれているものを数えることができる選手は間違いなく伸びる。
 
 
結果、まずは東日本インカレでの総合優勝という結果を手にする。
が、そのときも、彼はこう言った。
 
「結果として優勝できましたが完全に納得のいく優勝ではありません。
自分を客観的に考えるとまわりのミスに助けられたとか、無難にまとめたという見方をされてもおかしくないと思います。
果たして自分の演技内容はどうだったのか、動きはどう見えたのか、と考えた時にそれまでの練習でのほうが良かったと思いました。
ただ、4種目まとめる、という自分の調整力に対してはようやく理解が出来てきたのかな、と。
内容的にはまだシーズンはじめということもありはしますが『まだまだ』だな、と思っています。」
 
いい結果が得られても、いい評価が得られても、「もっとよくなるためにはなにが必要なのか」を考える。
もちろん、それは優勝という結果を求めているから、ではあろう。
ただ、それだけとは思えない。
 
おそらく。
新体操が好きなんだろう。
そして、新体操をやっている自分が好きなんだろう。
だからこそ、もっと好きになれるように、できる限りの努力はしたい、そう思っているのではないだろうか。
ただチャンピオンになればいいのではなく、自分でも自分を褒められるような、そんなチャンピオンを彼は目指しているのだ。
 
 
その貪欲さが、実を結んだのが種目別決勝だった。
 
個人総合では5位と表彰台を逃した安藤梨友(青森大学)の種目別決勝での気迫はすさまじいものがあった。
臼井の演技からも「1つくらいは獲りたい」という野心が感じられた。
なによりも、全日本インカレで個人総合優勝は勝ち取りつつも種目別で1つも勝てなかった福永は、前半種目では執念ともいえるエネルギーに満ちた演技を見せた。
そんな中で、川東はまずリングで18.475をたたき出し、1つ目の優勝を勝ち取った。
 
 
直前に福永がすばらしい演技で18.375を出し、悲願の種目別優勝か? と思われたが、それを打ち砕くことになった。
それは非情なようでもあるが、尊敬する先輩に対する最高の恩返しとも言えるだろう。
さらに、種目別決勝後半のクラブでは、今大会個人総合4位と自己最高順位を更新しのりにのっている堀孝輔(同志社大学)が会心の演技で18.150を出した直後に、再び18.400をたたき出して、2つ目の種目別優勝。
 
前日の個人総合での準優勝は、やはり彼にとっては「悔しい」結果だったのだと思い知るような種目別決勝での演技であり、結果だった。
終わってみれば、今大会の演技で8回の演技、すべてノーミスだったのは彼ひとりだった。
総合優勝こそは逃したが、MVPにはふさわしい存在感だったと思う。
 
 
今大会での彼の演技を見ながら「ギャップ王」という言葉が浮かんできた。
わかりやすいところでは緩急のギャップ。
多くの選手が果敢に手具操作を入れ込んでくるようになった現在の男子新体操において、「緩」を見せるときの彼は、どこまでもゆっくり動き、そして止まる。止まって引っ張る。一歩間違えば、緩慢にもなりかねないが、その動きには無駄がなく、指先までがすべてが彼のもつ体操の美しさを見せつける。空間さえも支配する、そんな力をもった体操なのだ。
一方の「急」では、タンブリングの迫力、スピードなどでは、高校まで団体の中心選手として苛酷な練習に耐えてきただけのことはある、と思わせる。手具操作でも、要所要所で考え抜かれた巧さを見せる。手数の多さでは一番ではないだろうが、ひとつひとつの操作が効果的に組み込まれ、体操の邪魔をせずよいアクセントになっている。
 
「去年のオフシーズンはひたすらチャンスがあれば演技会に出させてもらっていました。
元々基本的にどんな機会でも出たいなと思っていて、それは人前で演じる機会が少ない競技なので、マットがあろうがなかろうが、人前に出ることでの経験値を踏むほうがいい、と判断してチャンスがあれば出させてもらいました。
演技会は実施が求められるので、つまりミスしないこと、落とさないこと。
そこを大前提としてさらにすごいね、と伝わるような演技をして、人に見てもらうこと。
そう意識して数々の演技会に出させてもらうことで自分の中ではオフシーズンに集中が途切れることなく今シーズンを迎えることが出来たと思います。」
 
人懐こく、親しみやすい人柄でありながら、驚くほどたくさんことを考え、野心も持っている。しっかり計算ができるしたたかさもある。
どこを切っても意外性のある選手、それが川東拓斗であり、そこが彼の最大の魅力なのだと思う。
彼の体操は、本来、正統派の極みであり、よくも悪くも意外性は乏しく、面白みには欠ける部分があった。が、そこに安住せず、誰もが認める「魅力ある新体操」を体現すべく、彼はこの3年間もがいてきた。そして、その成果は着実に現れてきた。
きっとこの先も、彼は止まらない。
 
まだまだここは、彼にとっては通過点なのだから。
 
彼が目指すものに到達するときが来るとしたら、そのとき私たちは、「男子新体操のひとつの理想形」を見ることになるのかもしれない。
 
 
 
【川東拓斗選手大会後インタビュー】
 
「この大会では、この一年間やってきた成果が出せたと思いますし、種目別決勝で2種目優勝は獲れましたが満足はしていません。
 
試合の持って行き方としてはすごく良かったと思います。
試技順1番でそれに向けての練習をずっとしてきて、もちろんイレギュラーはありましたがそういう対応もできて、全体をまとめることができた、それは良かったと思います。
 
結果は、嬉しいとか悔しいよりも来年の為の今回だな、と思っていて、もう今年の全日本は“終わったこと”。
まだ自分は総合優勝もしておらず、何も成し遂げていないな、と。
まだ種目別も2種目だけなので、今大会は来年のためのステップアップの大会にしたいです。
次につながる試合にできたことは良かったと思います。
来年は東インカレ、全日本インカレ、そして全日本。すべて優勝したい。
来年のこの舞台で嬉しいと初めて思えるのかな、と考えています。
 
閉会式の山崎浩子さんの、失敗を失敗で終わらせてしまうと、という話はまさに去年の自分だったなと。
1年の時に全日本で3位から去年は失敗に終わって、やっとここまで再び登ってこられたのでもうワンステップ進化できるように頑張りたいです。」
 
PHOTO & INTERVIEW:Ayako SHIMIZU   TEXT:Keiko SHIINA