藤岡里沙乃(ラヴィール/東京女子体育大学)~第71回全日本新体操選手権

幼いころから、「自分のやりたいこと」が明確に見える演技をする選手だった。

そんな選手が、大学を卒業するまでずっと競技の世界の、それもトップレベルに位置し続け、戦い続けた。

本当は、「競う」よりももっとやりたいことがあるんだろうに、と見えることもあったが、

それでも、彼女はそこから逃げることなく、踏みとどまり、競い続けた。

だが、そんな中でも、決して「自分のやりたいこと」は忘れなかった。

藤岡里沙乃は、新体操が「芸術スポーツ」であり、「表現するスポーツ」であることを

常に思い出させてくれる選手だ。

昨年、大学を卒業し、女子には社会人大会がなくなっている今、現役続行はどうするのか? と思っていたら、

今年もしっかりクラブ選手権から勝ち上がり、全日本選手権にコマを進めてきた。

 

「まだ続けてくれていた」ある意味、それだけでも十分だった。

が、彼女が全日本選手権で見せた演技は、それをはるかに超えたものだった。

とくにフープは、春先の代表決定戦でお披露目した「Come together」は、熟成する時間を経て、

なんとも味わい深い作品へと変貌を遂げていた。

表現力はもとからお墨付きの選手だが、驚いたのはその身体能力にまったく衰えが見られなかったことだ。

新体操中心に生活していただろう学生時代とは、練習にかける時間もかなり違ってきているはずだ。

そんな中で現状維持することがどれほど難しいかは想像に難くない。

なのに、藤岡里沙乃は、社会人1年目の現在もまだ進化を止めていなかった。

それはおそらく。

彼女が、フロアに立つ以上は常に、自分の描き出す世界に観客を存分に引き込みたいと考えているからなのだろう。

「練習する時間がなかったんだろう」や、「年齢が上がったんだから仕方ない」などと

観客に感じさせて、世界観を崩したくないのだ、と思う。

 

競技者というよりも表現者。

昔からそんな雰囲気の選手ではあったが、社会人になりいっそうその色合いが濃くなった。

それでいて、そのことが「競技者」としての彼女にも決してマイナスにはなっていないと

証明してみせた全日本選手権だったように思う。

 

さらに深みを増し、さらに円熟味を増した彼女の演技は、確実にひとつの方向性を示してくれている。

みんながオリンピック選手になれるわけではないのならば、こんな新体操を目指す選手が増えれば、このスポーツはもっと魅力あるものになるかもしれない。

本日行われる東京女子体育大学学園祭での演技会でも、藤岡の演技を見ることができる。

ぜひ足を運び、この類まれな才能を堪能してもらいたい。

PHOTO:Ayako SHIMIZU      TEXT:Keiko SHIINA