2018東日本インカレ男子団体優勝/青森大学

「青森大学優勝」

そのこと自体に驚きはない。

しかし、今回の青森大学の勝利は、決して「あたりまえ」ではなかった。

 

そもそも、昨年までのレギュラーには、4年生が多く、大幅にメンバーが代わる今年は、常勝軍団・青森大学といえど、厳しい年になると予想されていた。しかも、昨年、レギュラーに入っていた五十嵐涼介(2年)が故障のため離脱。昨年までの「最強青大」からの残留メンバーは、キャプテンである井藤亘のみ、という苦境で迎えた東日本インカレだった。

大会前に中田吉光監督は、「今回は勝ちにはあまりこだわっていない。それぞれの持ち場で自分を発揮してくれればと思っている。」

といつになく、控えめだった。

勝ちよりも、「4年生たちが、青大のユニフォームを着て、堂々と演技できること、行動できることを期待している。」という中田監督の言葉は、教育者としては素晴らしいが、いつもの勝負師・中田とは違うと感じさせるものだった。

 

大会1日目。個人競技前半が終了したあとに行われた公式練習での青森大学の演技は、このチームが今、置かれている苦境を露呈するものだった。

ミスを連発し、演技がまとまらない。「これは青大に土か?」と危惧させる練習ぶりだったのだ。

 

大会終了後、このときのことを、キャプテンの井藤は、

「不安だったのは会場に来てから『ぶれる』ことでした。
まず一番は試合に慣れていないこと。
会場にきてからぶれることが一番の不安だったんですが予想通り練
習ですごくぶれが出ました。
本番まで周囲には出さないようにしていましたが正直すごく不安で
した。」

と語った。

そんな「不安しかない」状況から、どうチームを立て直したのだろうか。

本番での彼らの演技は、前日の公式練習とは見違えるようだった。正直に言えば、昨年のチームのような威圧感ともいうべき貫禄は感じられなかった。だが、その代わりに、この1本に懸ける真摯な思いは、かつてないほどに伝わってくる演技であり、その思いのもとに、チームがひとつになっているという一体感にあふれていた。

 

これは、おそらく中田監督が、「魔法の言葉」をかけたに違いない、そう思うほどの豹変ぶりで、彼らは優勝を勝ち取った。

しかし、中田監督は、「たいした言葉はかけてない」と言う。

正直、それどころではなかった、というのだ。

今大会、青森大学は団体が3チーム出場していたが、一番試技順の早かったBチームに演技序盤で、怪我人が出た。

中田監督が、大会前にもっとも気にかけていた4年生の一人・高橋祐大だった。中田監督は、彼をアップ場まで運び、その後、5人で演技を続けるBチームを最後まで見届けた。

演技を終えたチームを迎え入れるとき、高橋は駆け付けた救護班に脚を固定されながら、泣き崩れていた。青森の長い冬の間、ずっとこの大会を目指し、「最後になるかも」という思いも抱えつつ迎えた大会ではなかったかと思う。

そんな姿を前に、中田監督もさすがに思いは乱れていたに違いない。

それでも、すぐ後に、青森大学Cチームの試技が控えていた。

目の前で起きた高橋の事故に、Cチームの選手たちにも動揺がみえた。

中田監督は、「落ち着いて、自分たちのことだけを考えろ」と言うしかなかった。

救急車を待ちながら泣き続ける高橋の気配を背後に感じながら、中田監督は、Cチームの演技を見届け、演技を終えた彼らを迎え入れた。

救急車が到着し、高橋を病院に送り出すと同時に、Aチームがアップ場に入ってきた。

本番フロアでは、国士舘大学Bチームが演技をしている、そのわずかな時間で、中田監督は、Aチームのメンバーを集めた。

そこには、きれいごとも戯言も入る余地はなく、ただいつもの練習どおりに気をつけるポイントをいくつか伝えるのみに留めた。

「今大会では個人も苦戦したうえ、団体で怪我人まで出てしまい、流れは最悪だった。Aチームの前日練習もいい出来ではなかったが、あまり焦りは感じていなかった。あくまでもいつも通り、練習とおりで自分がいることで、選手たちの不安を取り除くことになると思っていた、のでそうしたようにも思う。」

と中田監督は言うが、それでもフロアに送り出す直前には、「お前たちで最後を締めてこい!」と檄を飛ばしたという。

メンバーの不安が強く、目が死んでいると感じたため、強い口調になった。結果的には、その檄が彼らの目を覚ました、と言える演技につながったのだ。

 

中田監督だけでなく、井藤も冷静だった。

公式練習でのミスが連発しても、焦ったり、苛立ったりする様子はなく、どうすれば立て直せるか、を熟慮している様子だった井藤は、

「東インカレ会場にきてから練習時間が決まっていて普段より短いので焦ってしまうことが多く、落ち着いた練習が出来ていなかったので本番当日の練習はメニューを詰めず楽にやれるようにしました。おかげでゆったりとした気持ちで落ち着いてできました。

 前日練習で落ち込んだメンバーもいましたがそこでそのままでいても仕方ないので大丈夫だと声をかけ、もち上げました。」と言う。彼には周囲がきちんと見えていたのだ。


 

苦しい中でも、優勝を決めたあとでさえも、彼はこう言った。

「本番の出来は良くはないです。
良くはないですけど、今の自分たちの出来る限りは出せた。
今の精一杯でした。
試合ではなかなか自分たちのベストを出すことが難しいのですが、
今回も最後の組などはもう一つ上げられる高さが出せたはずでしたが、試合本番の感じでは全員が落ち着いてやれる限界だったかな、とも思います。」

強がるのでもなく、ありのままの自分たちを見つめていた。

「昨年に比べて、チーム力は断然劣ると思います。
ただ、今年はまた一から見直しというか、
まだまだ上げられるとも思います。
 昨年のチームは自分は何年も一緒にやってて慣れているメンバーだ
ったし、先輩についていけば絶対大丈夫!という感じでした。その中でやはり一年先を見越して自分たちの代、自分の立場を考えた作り方を去年はしていました。もともと青大は練習中はフロアに乗ってしまえば先輩後輩はないフラットな関係で、全員で意見を共有しあうことができるチーム。それが大事なのでいつもそうしています。
今、東インカレ優勝で、ほっとしています。
勝てて、やった!!では、まったくないです。
18点に乗らないとは思っていなかったので、
これから先が思いやられる試合だったかな、と思います。
勝てて一安心ではありますが、今後教育実習なども控えていて、
自分も抜ける期間があるので、気を抜いてはいられないです。
《インカレ連覇を繋ぐ》ことが一番の目標で、
先輩たちの繋いできた伝統を崩さないように、もう一回、一から作り直したいと考えています。」

 

中田監督も、「今回の演技と結果は、この状況を考えれば、よくやったと言っていいと思う。」と言った。

「勝てば官軍」では決してない。

このままではいけないことは十分にわかっている。

でも、今はこれが精一杯だったこともわかっている。

今年の青森大学は、キャプテンも監督も冷静で、そこには驕りも過信もない。

つまり、このチームは、まだまだ成長する、ということだ。

今大会では、「辛勝」だった青大だが、17連覇のかかる夏に向けて、必ずもう一回り大きくなってくるはずだ。

PHOTO & INTERVIEW & REPORT:Ayako SHIMIZU

TEXT & INTERVIEW:Keiko SHIINA