新時代の幕開け~東日本インカレ男子団体

今日から東日本インカレが始まる。

今年の東日本インカレは、個人選手は男子35名、女子48名。

団体が男子6チーム、女子13チームとなかなかの盛況だ。5年前の東日本インカレを振り返ってみると、男子個人は19名、女子個人は33名だった。団体は男子4チーム、女子12チーム。

大学まで新体操を続ける選手が、男女とも増えてきている。これはじつに喜ばしいことだ。

とくに男子の増え方には顕著なものがある。現在の大学生たちは、いわば「タンブリング世代」だ。テレビドラマ「タンブリング」を見て新体操を始めたという選手も少なくないし、彼らが新体操を始めたときには、もう「男子なのに新体操?」と言われる時代ではなかった。テレビのバラエティーにもさんざん取り上げられていたうえ、ついにはテレビドラマにもなり、「男子新体操=かっこいい」という認識が広まってきた中で育ってきた選手たちだ。

TwitterやFacebookなどの普及もあり、ネットでは継続的に男子新体操の情報も発信されるようになった。ひと昔前のように、「男子新体操という競技があることさえ多くの人は知らないのではないか」という世界とは確実に変わってきた。彼らはそんな時代を生きてきた。

そして、この世代はもはや「青森大学以外のチームの団体優勝」をほぼ見たことがない。

彼らが男子新体操を始めてから、ほとんどの試合で団体覇者は青森大学であり、国士舘大学は挑戦者だった。こと、この4年間は、国士舘大学も近年まれに見るほど強く、毎年、「今年は国士舘かも」と言われるほどの演技を見せてきたが、青森大学の強さはその国士舘を毎回はねのけてきた。

その「青大最強世代」は、昨年の4年生が中心だった。4年間ほぼレギュラーを譲らなかった選手が4名。それだけの勝利を積み重ね、自信を深めていった去年までの青大は、手のつけられない強さをもっていた。

しかし、今年。

その偉大な世代が抜けた青森大学(Aチーム)に、去年までのレギュラーの名前は4年の井藤亘(埼玉栄出身)のみだ。4年の村松景介、3年の秋山亮は、昨年の全日本選手権ではメンバー登録はされているが補欠だった。今大会での青森大学は、こと経験値という点では、やや不安を残すメンバーになっていると言わざるを得ない。

昨年の夏、井藤は、「青森大学で来年はキャプテンになるので、勝ち続けることが目標になっている。」と言ったが、強力な先輩たちが抜けたあと、それは決して簡単なことではない、ということがわかっていての、その発言だったように思う。そのときの練習でも、上級生に対しても一歩も引かない強さをもって必死の形相で練習する井藤の目はすでに翌年を見据えているようだった。

「今年は勝てたとしても、来年は苦しい」。彼にはそのことがわかっていたのだと思う。

 

では、「青大の連覇に黄信号?」なのだろうか。

そんなことはない、と思う。

昨年の夏、全日本インカレの前に青森大学を取材した。

試合を目前に控えた大切な時期にもかかわらず、全部員がインタビューに応じてくれた。

そのとき、その時点ではレギュラーではない選手たちが、それぞれに熱い思いをもって真摯に新体操に向き合い、「青森大学」で新体操を続けていることに誇りをもち、そこで「自分を変えたい、成長したい」と考えていることに感動した。

そして、今年の青森大学のメンバーを見ると、あのときに彼らが語ってくれたことを思い出す。

昨年はAチームの補欠だった村松景介(島田工業出身)は、

「今年はAチームの補欠だが、来年は4年生なのでAチームで活躍したい。」とはっきり言った。

「今までも自分では精一杯やっているつもりで、これ以上、どうしたらいいのかわからなかった。でも、上に進むためには、絶対にやってやる! という強い気持ちが足りなかったと思う。

 1年生のころに比べると、自分も変わってきたと思える。高校時代までのあまり練習しないだらしない自分を変えたいと思って青森大学に来たので、ここで人間力を学べていると思う。」

 あのころ、彼はフロアでレギュラーが練習していると、その外で動いていたが、その目はしっかり翌年を見ているようだった。先輩たちが抜けたあと、同級生の井藤を支え、チームを引っ張る役割を自分は果たすのだ、と決意しているような練習ぶりだった。

 「4年生でAチーム」を実現した村松は、この大会で「Aチームで活躍する」も実現するつもりだ。

 

今回の青森大学Aチームには3年生が4人登録されている。

秋山亮(青森山田出身)は、去年の夏、「動きや基本徒手が弱くて、Aチームに入ると目立ってしまう。分習ではできていても通しになるとできなくて、補欠になってしまった。補欠でも、いつでもいける! という状態を作ることができず、信頼を勝ち取れていない。」と、自分の現状を厳しく分析していた。

「普段の生活からしっかりやっていくことで、信頼される選手になりたい。4年間かけて日本一のチームのメンバーになるんだ、という目標があるので。ここで頑張って、きつい練習もやり遂げて、社会に出てからも信頼される人間になりたい。」

その言葉とおりに、彼は信頼を勝ち得たのだろう。そして、これからもその信頼を損ねないように、今大会に懸ける思いは強いに違いない。

萩原大恭(会津工業出身)は、去年の夏、「この前までAチームのメンバーに入っていたが、怪我して落ちた」という状態だった。「大事なときに、こうなるのは、絶対メンバーになるという気持ちが足りないのだと思う。」とあのとき、彼は言った。

「青森大学で団体のメンバーに入って、日本一になるためにここに来ているので、絶対に日本一になりたい!」とも言った。今大会は、その夢をかなえるための大きな一歩になるだろう。

廣江壮太(紫野出身)は、「青森大学はレベルが高い。高校生のころなら通用していたことがここでは通用しない。」と言った。Aチームに入るためには、「自分には通し力が足りない。徒手で奥深さを出すことができていない。どうしても体操競技をやっていたときの癖が抜けない。」と、自分の課題をあげていた。そして、「新体操の技術も必要だが、ここでは人間力が大事。そこがないと使ってもらえないし、そこを鍛えてもらっていると思う。」と言った。あのとき、Aチームには入れないでいる自分には何が足りないのか。そして、その入れない時間が自分にはどんな意味をもっているのか、しっかり考えている選手だった。

「シルク・ドゥ・ソレイユにあこがれていて、青森大学でチャンスをつかみたい」と言っていた木牟礼まこと(ごんべんに旬)(小林秀峰出身)は、このときの自分の新体操は「弱点だらけ」だと評したが、「でも、弱点は努力で改善できる。中田先生の指導で、弱点には早く気付くことができるから、良くなってきていると思う。」と胸を張った。

そして、「2年目でBチームで試合に出るチャンスをもらえたので、来年は絶対にAチームに入りたい。4年間で青森大学の優勝メンバーに入ることが目標。」と言った。

村松、秋山、廣江、木牟礼。去年まではAチームとしてフロアに立つチャンスには恵まれなかった選手たちだが、「いつかはAチーム」を夢見て、自分の弱さにも向き合ってきた彼らが、めぐってきたチャンスを逃すはずはない。「最強青森」の後継者に恥じない演技をきっと見せてくれる。

2年生で唯一、Aチームに登録されているのが江上駿祐(神埼清明出身)だ。

彼は、昨夏の取材時に、そのマイペースさで印象に残った選手だった。彼は当時まだ1年生だったが、目標を聞くと「来年からメンバーに入ること」と迷いなく答えた。

そして、「青森大学では、全員が同じ方向(日本一)を向いている。その中で自分がどれだけ熱くなれるか。高校時代は、自分がやらなきゃ! という気持ちを持っていたが、ここではついサポートする立場に徹しそうになってしまう。チームでも日本一を目指しながら、そこに自分がメンバーとしていることを目指していきたい。フロアにいるメンバーに入っていても、いなくても同じ方向を向いていたい。」と言った。

このときの彼は熱く、それでいてクールだった。まだ青森に来て4か月しかたっておらず、先のことなんて皆目わからなかった時期ではなかったかと思うが、そういう周囲の状況などに左右されない強さを感じさせる選手だったのだ。おそらく、彼はあのときのまま、ここまできたのだろう。

そして。

今回、Aチームに登録されているただ一人の1年生が、武藤翼(前橋工業出身)だ。

昨年、久々に全日本選手権まで駒を進めた前橋工業高校団体の立役者。ジュニア時代から、そのどっしりとした体操には定評があった。そして、高校3年間、前橋工業団体は、順位は伴わないことはあっても、毎年素晴らしい演技を見せ、彼はいつもその中心にいた。

昨年の高校総体、全日本選手権での前橋工業の演技での彼を見ると、そのときすでに「青森大学団体のメンバーとして演技する姿」が頭に浮かんで仕方がなかった。そのくらい、この選手は「青森大学の体操」を体現しているのだ。1年生としてして迎える今大会、フロアに立つメンバーに入っているのかどうかわからないが、仮に今回は入っていなかったとしても、今後の青森大学団体に、彼は欠かせない存在になるだろう、と確信できる。

 

登録メンバーは8人。

ここに挙げた全員がフロアに立てるわけではない。

が、まずはこの8人に入ることが至難の業なのだ。それは、あの練習風景を見ていればわかる。

去年の夏、Aチームの補欠だった村松、秋山は仮にもAチームの練習に入っていた。フロアの外ではあってもレギュラーと同じに動いていた。しかし、他の選手たちは、レギュラーがフロアで練習している間、マットのない床面で練習していたり、フロアの外で選手たちの動きを見て、狂いを指摘したり、アドバイスしたり、タオルや飲み物を渡す、そんな役割を果たしていた。

昨年までのチームに比べれば「経験値は低い」かもしれないが、フロアに立っていない時間に培ってきた思いの強さ、熱さは、常にフロアに立ち続け、脚光を浴び続けてきた者には負けない。

そして、忘れてはならないのは、中田吉光監督は、そういう「悔しい思いを抱えてきた選手」を勝ちに導くことが抜群にうまい監督だということだ。

何年も前になるが、忘れられない中田監督の言葉がある。

「おれは、弱いやつが好きさ」

今まで勝てなかった、今までは弱かった、そんな選手を強くするのが青森大学であり、中田監督なのだ。そういう意味で、今回のチームはじつに「青森大学らしい」チームだと思う。

インカレ16連覇の青森大学は、もとはと言えばそんなチームだったのだから。

それでも勝つのが青森大学の強さなのだから。

 

昨年の全日本インカレでは、本当にあと一歩のところまで青森大学を追い詰めた国士舘大学も、「今回こそは!」という思いで、今大会に向かっている。

現在の「再び強くなった国士舘」の中心だった吉村翔太は、卒業したが、その吉村を尊敬し、敬愛し、その遺産を確固たるものにし、超えていこうとする4年生の山口聖士郎(光明相模原出身)、山本悠平(済美出身)がチームを引っ張る。

そして、新たにAチームに加入したのが、馬越太幾(井原出身)、池谷海都(光明相模原出身)、川端勇輝(国士館出身)、そしてルーキー・佐々木駿斗(光明相模原出身)。すでにAチームを経験している稲岡逸生(網野出身)、村上恵右(島田工業出身)。こちらも弱いわけはない。

このシーズンオフ、国士館は、「マッスルミュージカル」や新潟演技会、先日は体操ジャパンカップでのエキシビションなど、多くの発表の場を経験し、見せる力をつけてきた。

もちろん、基本の体操やタンブリングなどの技術も磨き続けてきている。

一方の青森大学は、今年は例年になく静かなシーズンオフを過ごしていたように思う。恒例となっていた『BLUE』公演もなく、海外遠征の話も聞こえてこなかった。

つまり、それだけ彼らはただひたすらに競技力を磨き上げてきたのだろうと思う。あの雪深い青森の冬の間、ずっとだ。

この戦いに、どんな結末が待っているのか。

それはわからない。が、熱い戦いになることは間違いない。

東日本インカレ、本日開幕!

男子団体競技は、明日(5月13日)16時30分、競技開始だ。

 

TEXT:Keiko SHIINA      PHOTO:Ayako SHIMIZU ※2017年度のもの