2018高校選抜の収穫⑦~夏井麻衣(喜多方高校)

「表現力のある選手」という言葉は、音楽や物語を演技で伝えることのできる選手、という意味で使うことが多いと思う。

が、「表現力」とはそれだけを指す言葉ではない。

音楽や物語などを、いわば「演じる」タイプの表現力ではなく、自分の中から湧き上がる感情を、演技で発露することができる、そんな表現力もあるように思う。

夏井麻衣は、もともと後者のタイプの「表現力」豊かな選手だった。

調子よく、勢いよく演じているときの彼女の演技からは、いつも新体操が大好き! な思いが伝わってきたし、踊ることが楽しくて仕方ない! という思いに溢れていた。

その分、調子の悪いとき、うまくいっていない演技のときは、その焦りや落胆などもストレートに伝わってきてしまう。よくも悪くも、感情が演技に現れる、そんなタイプの選手に見えていた。

 

ジュニアにはありがちなことではあるが、夏井は振れ幅の大きな選手だった。

エネルギーにあふれ、インパクトのある演技をやってのけたかと思えば、ミスを連発して沈み込んでしまうこともある。中学3年生のときの彼女はその振れ幅が悪いほうに出てしまったようだった。

高校で新体操を続けるかどうか。

続ける自信をも失っていた時期もあると聞いたこともあった。

 

しかし。

彼女は新体操をやめなかった。

地元の高校に通い、ジュニア時代から籍を置く華舞翔新体操倶楽部を拠点に新体操を続けてきた。

今大会での夏井の演技、とくに前半種目は突き抜けていた。

普段からエネルギーあふれる演技をする選手ではあるが、この日の演技は、いつにもまして感情が爆発するような演技だった。

地元である福島県で開催された高校選抜。

今までずっとお世話になってきた先生方、同じクラブの先輩方、そしてもちろん家族などもみんなが会場で彼女の演技を見守っていたのだろうと思う。

その温かい空気の中で、おそらく彼女は、「この場で踊れる幸せ」を全身で感じ、その幸福感がその演技からあふれ出ていたのだと思う。

前半種目では、ミスらしいミスもなかった。

ミスを怖がっている様子もなく、思い切りのよい演技だったが、ミスが出る気のしない演技だった。

そう、まるで「神様が守ってくれているような」そんな演技を、彼女はこのうえなく幸せそうな笑顔で踊り切った。

今の新体操選手たちは、多くが就学前から新体操を始める。仮に小学校入学と同時に始めたとしても、高校2年生なら、もう10年は新体操をやっていることになる。競技選手として活動しているのならば、おそらく週に4日以上は練習があるだろう。いや、ほとんど休みなく、という場合も少なくないだろう。

そして、地方であればとくに、親の送迎も必須となる。

来る日も来る日も、夕方から夜は、新体操の練習会場への送迎。それも、決して短い距離ではない場合も多い。

夏井もおそらく、そんな風に、多くの人に支えられ、家族に支えられて新体操を続けてきたのだと思う。試合で思うような結果が出ないときは、自分が悔しいだけでなく、支えてくれる人たちに対しての申し訳ない気持ちに押しつぶされることもあったのではないだろうか。だからこそ、好きな思いだけで続けていいのかどうか、迷ってしまったこともあったのかもしれない。

 

しかし。

この日の彼女の演技を見れば、支え続けてきた人たちもみんな幸せな気持ちになれたはずだ。

「好きなだけで続けていいのか?」

いいに決まっている。

うまくなくても、強くなくても好きなら続けていい。

いや、それこそが「続けられる選手の条件」だ。

そうして続けることを選んだ選手だけが、自分の壁を乗り越えられる。

この日の夏井の演技は、そんなことを教えてくれる演技だった。

見ている人たちを、幸せな気持ちにさせてくれる演技だった。

どん底のような思いを味わいながらも、彼女が新体操をあきらめず、続けてきたからこそ、故郷・福島でこの演技を見せることができたのだ。

TEXT:Keiko SHIINA       PHOTO:Ayako SHIMIZU