イオンカップ2014~潜在能力示した早川、皆川

イオンカップが終了した。

1~3位は、マルガリータ・マムン(ロシア)、ヤナ・クドリャフツェワ(ロシア)、メリチナ・スタニオウタ(ベラルーシ)というトップ3の顔ぶれは、順位の入れ替わりはあるものの、昨年のイオンカップとまったく同じだ。

 

2012年のロンドン五輪後、ロンドンの女王・カナエワをはじめ、多く名選手が引退したが、その次の世代のトップ集団は、ほぼメンバー確定してきたような印象だ。

 

そして、2013年から採用されている新ルールによる傾向もかなり明確に見えてきた。

しかし、その傾向は、日本国内の試合を見ていて感じるのと、海外の選手たちを見て感じるのには隔たりがある。

日本だから、海外の選手だからという差ではなく、もっとも大きいのは「個人差」なのだとは思うが、今回のイオンカップを見て、改めて感じたのは、とにかく「手具操作の巧緻性」が半端ない! ということだ。「手具操作が神!」レベルの選手が飛躍的に増えた。

世界選手権チャンピオンのヤナ・クドリャフツェワ選手は、言うまでもないが、その他の選手たちも、前のルールのころにこれをやっていたら、「天才」と言われただろう、と思うほどの技を1つの演技の中でいくつも行う。

それはもう、サーカスかマジックを見ているような驚き、興奮があり、新体操とはこんなにエキサイティングなスポーツだったのか? と再認識した。

もちろん、「芸術性」も必要だ。今大会でも、アンナ・リアディノワ(ウクライナ)やエカテリナ・ガルキナ(ベラルーシ)、マリナ・ドゥルンダ(アゼルバイジャン)などが見せたような、体や手具がゆっくり動く中でも、物語を感じさせるような演技は、やはり素晴らしいし、「これぞ新体操!」とも思う。が、一方で、見るものを圧倒するほどの手具操作。これももちろん評価されてしかるべきだと思う。

 

今大会を見ている限り、現在のルールではその相反する2つの特徴は、それぞれに評価はされているように感じた。もちろん、それだけやっている選手たちは大変だろうとは思うが、鑑賞する側からすれば、楽しい時代になったものだ、と思う。

 

そんな現在の新体操の状況を踏まえたうえで、日本の新体操界は? と考えてみたとき、正直、イオンカップ2日目の早川さくら、皆川夏穂(ともにイオン)の演技を見て、少しばかり暗い気持ちになった。

2年に及ぼうとするロシア合宿の成果はたしかに出ている。それは間違いないのだ。

ワールドカップや、世界選手権を見ても、彼女たちの「出し得る最高得点」は着実に上がってきている。世界の中での知名度も上がってきていると聞く。中には彼女たちを高く評価する海外の審判、指導者も少なくないとも聞く。

ある程度、先入観に左右される採点競技において、名前を売っていくことは、上にいくためには必須だろう。そういう意味でも、彼女たちの強化は着実に進んでいるのだ。

2016年のリオ五輪に、日本から個人の選手が出場する。

まずはそこが目標と思えば、もう来年(2015年)の世界選手権では結果を出さなければいけないのだ。2年かけて、ここまで強化を進めてきた早川、皆川にかかる期待は大きい。

だからこそ、もうそろそろ。「よく頑張っている」「伸びていることは間違いない」

でよしとしていていいのか? という思いがあった。

なにしろ、周りの選手たちは、どんどん高難度な操作を取り入れた演技になっていっている。しかも、超高難度の技でもミスもしないのだ。

イオンカップ2日目の2人の演技には、小さいミスが散見された。

久しぶりの日本での試合という緊張を差し引いて考えたとしても、もうこういうミスをしている段階ではないのでは? と思った。

早川も皆川もすばらしい選手だ。スタイル、身体能力など、日本人としては類まれな素質をもっている。だからこそ、日本はこの2人に賭けた! それは間違ってはいないと思う。しかし、今の新体操は猛スピードで巧緻性を求めるようになってきている。

彼女たちは、それに応えられるのだろうか。

2日目の彼女たちの演技を見たときには、そんな疑問、不安がわいてきてしまった。

 

そして、イオンカップ3日目を迎えた。

 

皆川夏穂は、3日目の1種目目・ボールの出来が悪かった。

脚キャッチ、もぐりキャッチで落下。最後の投げもおそらく脚キャッチだろうが、手を出してしまっていた。2日目は、小さな狂いはあっても、なんとか落下は犯さずに持ちこたえていたのに、おそらく「今日こそは」という意気込みはあっただろうに、意に反して、最悪のスタートになってしまった。得点も15.483。

リオ五輪の枠がかかった世界選手権まで1年を切っているこの時期に、こんなミスをしているようで、本当に大丈夫なのか? 私のそんな不安はこのときピークになった。

 

イオンカップは、トーナメント方式をとっているため、イオンは3日目の準決勝でディナモ(ベラルーシ)と対戦していた。ボールのあと、ディナモの選手と交互に演技をし、わずか5演技をはさんだだけで、皆川は2種目目のフープに向かわなければならなかった。

最悪のスタートから、気持ちを切り替えるのに十分な時間があったとは到底思えなかったが、無情にもコールがされた。

皆川のフープの曲は「月光」。

静かに、そして厳かに曲が流れ、動き始めると、その動きは、ほんの数分前に行ったボールとも、前日の2種目ともまったく違っていた。

はっきりとした意思を感じる強い動き。「闘志」と言ってもいいようなパッションが彼女の演技から立ち上っていた。ある意味、開き直ったようにも見える。そんな強さが、この大会で初めて見えた。

最初の後ろもちピボットでは、しっかり軸にのり、おそらくこの2日間で初めてと言っていいほど、回り切る。

これで、のった。

曲は次第に激しさを増していき、皆川の動きにもエネルギーがみなぎっていく。

難しい手具操作も、要所要所に入っているが、それも強気に躊躇なく、こなしていく。

わずかなインターバルしかなかったというのに、ボールで露呈してしまった脆弱さは微塵も見えない演技で、17.133。ひとつの目標となる得点17点台にのせた。

試合後の記者会見で、皆川は、「2日目は、ミスは出なかったけれど、楽しめなかった。3日目は楽しもう、と思っていたが、ボールの演技は、緊張が演技に出てしまった。」と言った。そして、「フープの前に、気持ちを切り替えて、フープからは楽しみながら演技できた。ミスが出ても、そのあと切り替えられたのは収穫。」と、笑顔を見せた。

たしかに、このフープでの好演技で気持ちがのってきたのか、続くリボン、クラブとも前日よりのびやかに動けていたし、大きなミスも出なかった。得点もリボン16.783、クラブ16.750と前日を超えた。

 

今大会最低の演技になってしまったボールのあと、いわば背水の陣で挑んだフープでの起死回生の演技が、皆川を救った。つまり、彼女は、自分で自分を救ったのだ。

「またミスするんじゃないか?」

そんな思いがよぎらなかったわけではないと思う。

しかし、そんな思いを振り払って、「できるはずの自分」を信じた演技がフープではできた。皆川夏穂は、そんな強さを身につけていた。

 

そして、早川さくらも。

3日目、早川の1種目目・リボンで、早川も皆川同様、つまらないミスをした。

背中でのスティック転がしでの落下。

このミスを見たときに、やはり私の不安はいっそう大きくなった。

しかし、早川もまた、わずか5演技が行われる間にしっかり立て直し、クラブでは落ち着いたノーミス演技を見せる。

そして、圧巻だったのが3種目目のフープだ。

男性ボーカルの曲で、「恋」を表現しているというこの作品を、早川はよどみなく踊り切った。ほかの種目では、外国人選手たちに比べると拙くも見えていた手具操作も、フープという大きさのある手具を、ダイナミックに動かすこの作品では、気にならなかった。前日はキャッチがあやしかったところも、しっかり修正され、気持ちのいい、爽快な実施だった。

そうなると、同じ「落下なし」でも、前日の演技とはまったく違ったものになった。

「はまったときの早川さくらなら、世界でも勝負できる」という話はよく耳にしていたが、これがそうなのか! そう思わせる演技だった。

会場で解説をしていた山崎浩子強化本部長も、この演技が終わったあとは、「これ、よかったんじゃないですか~」と、解説というよりも、素直な感想をもらした。

果たして得点も17.433と、今大会の早川の最高得点が飛び出した。

試合後の記者会見で、早川は、「大会を通して、大きなミスが出なかったのはよかった。昨日はピルエットの回転不足があったので、今日は粘れてよかった。小さいミスが出てしまったのはもったいなかった。」と、今大会を振り返った。

そして、リボンの演技について、表現の面でどんな工夫をしているか、と訊かれると、「バレエ『バヤデール』の音楽なので、ロシアで『バヤデール』を4回観て、本場のバレエから学んだものが演技に出るように演じている。」と答えた。その答え方が、なんとも堂々としており、単にバレエを見て参考にしている、というのではなく、バレエの本場であるロシアで、「本物」を見ているということが、彼女の自信を裏打ちしているのだと感じた。

 

また、間にジュニア選手を挟んでだが、隣同士に腰かけた早川と皆川は、会見中も時折アイコンタクトをとりながら、お互いに「だよね?」というように同意を求めたり、確認し合ったりする様子が見られた。

今年の5月、ユースチャンピオンシップで、2人がエキシビションを行ったときの記者会見でも、「ロシアでの生活は大変なことは多いが、2人だからやっていけている」と、それぞれが言っていた。

仲間ではあるが、ライバルという側面もある。

試合に出れば、勝ったり負けたり。明暗が分かれることもある。

日本にいるときから同じクラブで、ロシアでも2人いっしょ。

だからこそ、お互いにお互いの頑張りも、弱さもよくわかっているだろう。

「2人だから支え合い、励まし合える」ばかりではないと思う。

それでも、「2人だから頑張れる」と2人ともが言う。それは本心なのだ、きっと。

 

イオンカップ3日目、早川さくらと皆川夏穂の演技を見て、試合後の記者会見を終えたとき、数時間前の不安がうそのように、私の心は晴れていた。

ここに至るまでに2年近くがかかった。

が、彼女たちは、確実に自信をつけてきている。

そして、真の仲間にも恵まれている。

 

今後の抱負を訊かれると、皆川夏穂はこう答えた。

「1日1日、難度の正確性をあげ、曲に合った表現を身につけていきたい。来シーズンに入ったら、ワールドカップを通して、もっと成長したい。」

早川さくらは、「来年はリオ五輪の前の年なので、世界選手権は、すごく緊張する試合になると思う。その緊張の中でも、ミスせずに演技できるようにしたい。」と言った。

 

多分、大丈夫。

きっと彼女たちはやってくれる。

イオンカップを終えたとき、私はそう思った。

もちろん、まだ到達はしていない。

目指すところにはまだ届いていない。

ただ、思った以上に高くまで、彼女たちは昇ってきている、と感じることができた。

 

そういう意味でも、今年のイオンカップは、収穫の多い大会だった。

 

PHOTO:Yuki SUENAGA  / Naoto AKASAKA      TEXT:Keiko SHIINA