名取高校 ~相乗効果~

 宮城県の名取高校が、大きな戦力アップのときを迎えている。昨年、全日本ユースで団体4位という好成績を残しているキューブ新体操クラブのメンバーが、同高校に入学したためだ。今回、キューブから入部したのは三つ子の佐藤綾人・颯人(はやと)・嘉人と、高橋稜の4名。三つ子の3選手は個人でも全日本を舞台に高いパフォーマンスを披露しており、佐藤綾人は、昨年の全日本ジュニアで準優勝にも輝いている。

 

 こうした面々を迎えたことで、チームの能力は確実にアップした。だが興味深いのは、この新メンバーの加入が、チームにとって純粋な能力アップという以上の意味があったことだ。

 

 ユースを目前に控えた5月下旬。半年ぶりに見た名取高校の練習風景でまず目を奪われたのは、その演技構成の複雑さだ。運動量がこれまでの構成よりも格段に増している。音の取り方はダンスで使われる8ビート。体操よりはるかに細かい音どりで作られた動きは、細かくて複雑。そして、そんな動きが休む暇もないほどに詰め込まれている。

 名取高校の本多監督は、これまで様々なチームで実績を残してきた。昨年は、ほぼ高校始めの初心者ばかりだった名取高校を、赴任一年目にしてインターハイ出場へと導いた。一昨年まで率いていたキューブ新体操では、他のどことも違う選曲と、それに合わせた踊り感のある、奇抜な構成を披露。審判の意見の割れそうな挑戦的な演技ながら、ユースでは4位に食い込んだ。それ以前には、やはり初心者ばかりだった聖和学園を全国選抜準優勝にまで導いた経験がある。

 

 そんな監督のつくる団体の魅力は、「演技構成の妙」ということに尽きる。聖和学園時代はオリエンタルな雰囲気の曲で、どこか妖艶で、不思議な一体感のある演技を作り上げた。キューブ新体操では、リズム感のある曲に合わせたダンサブルな演技を披露。そのどことも似ていない演技構成で、常に周囲を驚かせてきた。

 

 そしてもっとも評価したいのが、こうした奇抜な構成を選手の能力をカバーしながら実現するという点だ。選手にタンブリング能力が足りないと思えば、その分を組技やステップでカバー。体操の質が十分でなければ、体操とは違った奇抜な動きと、曲との一致とで印象を残す。昨年のチームも、そうやって演技で足りない部分をカバーしつつ、同時に他のチームとは違う、独自の世界観を作り上げてきた。

 そういった点から考えると、今年の演技構成の複雑さは、ある種納得のいくものだった。キューブ新体操の4名は全国大会経験の豊富な、能力の高い選手。加えて、一昨年までは本多監督の指導を受けてきた選手で、監督のつくる演技や、その意図を汲み取ることにも慣れている。選手の能力をカバーするのではなく、今年は「彼らならできる」というレベルの高い構成を作ることができたからだ。

 

 団体Aチームはキューブの4人と、高校から本格的に新体操を始めたという3年生の赤井澤典生(てんせい)と松根光介とで構成されている。主将の赤井澤が、「頭も使うし、体力的にもキツイ」と話すのはもちろんだが、キューブ出身の高橋稜も「今までで最高にキツイ構成」だと話す。直線と曲線とが入り混じった複雑な動きは、どれも体操のそれとは違っていて、6人が同じ形に合わせることすら難しい。それが演技中にはこれでもかと詰め込まれており、それらは高い同調性が求められる。音のカウントが細かいため、わずかなズレでも演技が乱れるためだ。意識と体力ともに、大きく消耗する演技だ。

 また、彼らを苦しめるのは演技の難しさだけではなかった。実は今大会の日程は、彼らにとってかなり過酷なものになっている。ユースは5月31日に個人、6月1日に団体という日程になっているのだが、実は5月30日はインターハイの宮城県予選にあたる、県総体の個人が行われ、31日には団体が行われる予定なのだ。県総体にはインターハイの出場権が、ユースには全日本選手権の出場権がかかっている。考えた末、名取高校は5月30日の県総体個人に佐藤三兄弟らを出場させ、その後すぐに東京に移動、翌31日にユース個人に出場し、6月1日のユース団体にも出場、というハードスケジュールをこなすことに決めた。31日に行われる県総体の団体は、Bチームで臨むことにした。

 

 県総体では、佐藤三兄弟が1枠のインハイ出場権を巡って争うことになる。そこで明暗が分かれた後、彼らはすぐに全日本の出場権を巡って争うことになり、そしてその翌日には団体が控えているのだ。精神的にも肉体的にもかなりタフな日程だが、当の選手たちがそれを望んだという。大会は選手を成長させる大きなチャンスだ。加えて、キューブの面々はもとより高い能力を持っている。結果如何に関わらず、彼らにとってこの経験は大きな意味を持つだろう。

 そして、もうひとつ。今回の一連の出来事は、監督にとってもうれしい誤算を生んだ。Bチームへの影響だ。

 

 先にも述べたように、今回の演技構成はかなり難易度が高い。音の取り方は難しいし、動きもひとつひとつが普通の体操とは違う。レギュラーメンバーですら「キツイ」と話す内容なのだ。

 その演技を、ほぼ高校始めの選手で構成されるBチームが思った以上に「こなせて」いるのだ。もちろん、クオリティでいえばレギュラーであるAチームのそれとはかなり隔たりがある。しかしそれでも、経験者でさえ消耗が激しいこの演技に、キャリアの浅い彼らが食らいついているというのはかなり高く評価できる。

 
 もともと、BチームはAチームのそれからかなり動きや要素を減らした演技を練習していた。しかし次第に自らAチームの動きをを足すようになり、今ではほぼAチームと同じ演技に取り組んでいる。
 
 Bチームのチームリーダーで3年の佐藤雅也は「(新入生が入った)4月から比べて、できることが増えた」と話す。Aチームの動画を見て、自分の動きとの違いをつぶさに観察するようになったためだ。
 

 また、昨年のインターハイの経験や、キューブ出身の選手たちの話も上を目指す良い刺激になったようだ。

「去年のインターハイはすごく緊張もしたけど、すごく楽しかった。でも今考えるともっとできることがあったなと思います」
「(キューブ出身の選手から)全日本選手権の話とかを聞いて、自分もそういうところに行ってみたいなと思うようになりました」(佐藤)

 

 Bチームの選手が意識が高いチームは、強い。レギュラー以外の選手が高い意識を持っているということは、チーム全体の意識が高いということだ。そうしたチームは、レギュラーかそうでないかに関わらず、技術・メンタルでの相乗効果が生まれやすいからだ。

 

 今回の新メンバーの加入は、主力選手が増えただけでなく、周囲の選手に刺激を与えたという側面が大きい。上級生は「今年になって、部活がより楽しくなった」と話すし、実際に練習風景は以前よりもかなり活気を増していた。

 

 このわずかな期間でこれだけの変化があったチームだ。これからどんな相乗効果を上げていくのか、期待が高まる。

 

Text & Photo by Izumi YOKOTA