2013全日本インカレ 男子団体第3位 福岡大学

 

 

 今回の全日本インカレで、観ている人の心を動かすという点で随一のパフォーマンスを見せたのが、3位に入賞した福岡大学だった。西インカレからひとつの演技にじっくりと向き合ったことで、演技は確実に実施を上げ、深みを増した。新たな組技にも挑戦し、終盤にはかなり危険度の高い技も取り入れた。そしてそれらはドラマチックといっていい展開と相まって、より深く心に残ることとなった。

 福大の今回の演技は「雪」をコンセプトにしたもので、美しく、繊細で儚げな雰囲気が魅力だ。曲は静かなピアノの旋律からはじまり、中盤から力強くも哀愁のある盛り上がりを見せる。この演技は選曲からコンセプト、演技構成に至るまでを、福大OBで現在は指導に入っている木原正憲コーチが主導になって作り上げたものだ。技や動きから入ることの多い男子新体操の世界で、明確なコンセプトを設けて演技作りをすることは珍しい。それだけに、出来上がった作品はどこよりもメッセージ性の強いもので、西インカレの時点でもかなり存在感を発揮していた。

 

 この演技がこれだけの魅力をもつ理由は、その世界観をより細かな部分まで作り込んだ点にある。コンセプトを明確にしたうえで、演技の中ではより細かな情景描写が作りこまれている。「最初は雪が舞いあがるイメージで」「ここは地面に落ちて、溶けて消えていくイメージで」といった木原コーチの説明を聞くと、その情景は実際の演技の中でよりはっきりと浮かび上がってくる。

 

 曲の世界観を確かに表現した演技は、多くの人がまた見たいと感じるようなものに仕上がり、男女ともに反響が大きかった。演技と言うよりは「作品」という言葉がしっくりするような、そんな独特の雰囲気を持っていた。

 

 実際、西インカレ後にも主将の亀川和輝は「全体の講評で、演技自体が悪いといったことは言われなかったので」と話し、周りからの評判も悪くなかった。それで、インカレではこの演技の精度を高めて戦おう、という結論に至った。

 しかしまったく同じ演技をするだけでは、どんなに実施を高めても点数はある程度予想がつく。恐らく、何か新しい見せ場を入れなければならないだろうとは思っていたが、そんな折に、木原コーチから「インカレでは新しい組みを入れることになりました」といった旨の報告を聞いた。

 

 その組みというのが、もとは神埼清明高校がインターハイで披露する予定だったもの。3人の土台が「飛び役」の1人を投げ上げ、その飛び役が落下してくるところを、前で待ち構えていた2人が両足をつかむようにし、着地へと促す。落下してきた飛び役は、足をつかまれることでうまく勢いを殺し、そのまま前転で着地する。文章にするといかんせん想像がつき辛いが、この飛び役の投げ上げられる高さが半端ではないうえ、着地はヘタをすれば首を骨折する可能性がある「転系」の技。それも着地の安全性は両足をつかむ2人にゆだねられる。あの高さからの落下で自分の安全を他人にまかせるというのは、どれだけの恐怖を伴うかは想像に難くない。

 そしてさらに恐怖心をあおるような事実が、神埼清明にはあの組みでひどいケガを負った選手がいるということ。この技は飛び役の選手が負傷してしまったため、清明はインターハイで披露することがなくなったのだ。今回はその技を、神崎清明の卒業生でもある木原コーチが引き受け、演技のラストに入れることとなった。

 

 この技で要の飛び役を引き受けることになったのが、4年の古田真大。彼は高校時代から組みでは飛び役になることが多く、周囲からはその手練れの選手のように思われがちだが、実は投げ上げられるのには常に恐怖が伴うという。だから、そんな彼にとって今回の組みは「めちゃくちゃ怖い」ものだった。

 

「やると決めたので、がんばるしかないですね。演技のラストに入っているので体力的にも心配なところもあるんですが、土台を信じて、思い切りやります」(古田)

 

亀川も次のように話す。

 

「あの組みで(神埼清明の選手は)ひどいケガをしているので、正直、練習で1回やるごとに『骨折してもおかしくない』と思っていて。でも西インカレでは武器がなかったから勝てないんじゃないかと思っていたので、インカレではこれを武器にしたいな、と。点数出すためにこれしかないと思っているので、絶対に成功させるという気持ちと、チームワークで形にしたいです」(亀川)

 

 終盤の見せ場という点では土台にも負担は大きい。3年の帯包輝(おびかね ひかる)は「土台自体の難しさというのはないんですが、終盤なのでキツイというのはある」と話す。2年の小山内康朝は高身長の選手だが、実は高校までは組みの飛び役になることが多かった選手。今回はラストの組みでは落ちてくる古田の脚を掴むポジションにいるが、かつての経験からこう話す。

 

「あの組みは見ていても怖そうなところが分かります。最初の方にちょっとだけ(飛び役の)練習をしたんですけど、頭から落ちる着地を(足を掴む)二人だけにゆだねるところは本当に怖いと思います。自分の役割は重要だな、と」(小山内)

 

 

 演技の魅力は十分。西インカレから続けているため、実施もかなり高めてきた。それだけに、この組みでインパクトをプラスできれば、演技としてかなり完成されたものになる。だが、実はインカレ直前の時点で、この組みが通しで成功する確率は5本に1本程度だった。

 

「一時期は安定して成功していた時期もあったんですが、最近また不安定になってきましたね。慣れてきて高さが出たことで、また調整が必要になったのかもしれません。また安定して来るとは思うんですが」(木原コーチ)

 

 組みは成功すれば綺麗な前転の形で着地するが、失敗すると着地で背中を打たれ、崩れるようにしてフロアに倒れ込むこともある。そうなれば、誰の目にも明らかな、大きな減点対象だ。

 

 それを防ぐために、古田は投げあげられた時点から、全力で体を締める。着地の時点ではさらに勢いを抑えようと全身に力を入れるので、演技終盤にもかかわらず見た目以上に体力は消耗する。また、この演技は静かな曲調とは裏腹に、見た目以上に負担が大きい。見せ場の組み技は全て後半に集中している上、ラストはタンブリングの直後に組技に向かう。精度が問われるバランスが、脚に疲労がたまっている後半に入っていることも、実はかなりリスクが高い。

 それでも、福大で通し練習をしている時に、動きで、表情でもっとも正面に訴えかけてきたのは古田だった。ポジション的に彼が目立った位置に据えられるシーンが多かったこともあるだろうが、それでも彼の演技には周囲を引き込む力があった。もっともリスクのあるポジションにいながら、これだけ全力で動ける選手は貴重だ。そのことを古田に告げると、はにかんでこう答えた。

 

「自分で思い切り攻めた演技ができているか、というと自信はないんですが……。ポイントポイントで前にうったえかけるようにはしています。(ラストの組みについては)キツくない演技は絶対ないし、演技はキツくて当然だと思っているので。痛くても、キツくても、やらないといけない。自分だけじゃなく、亀川も色んなとこ痛めているんですけど、アイツが言わないんで。1番痛いのは、アイツなので」(古田)

 

 実は、亀川は7月末の練習中に足首を負傷していた。当時その現場に居合わせたのだが、当の本人が「大したことないと思います」と軽く話したことと、その後も痛いようなそぶりを見せなかったために当初は大きなケガとは思わなかったのだが、後になって「けっこうひどかったみたいです」と木原コーチから話を聞いた。大事をとって練習に参加できないわずかな時間、亀川がふと呟いた「本当は休んでる時間はないんですけど……」という言葉には、心の底から悔しさがにじんでいた。

 そうした状況だったから、インカレ本番での焦点は、ラストの組みにあると考えていた。が、予選での落とし穴は、思わぬところにあった。今回の演技にはラストの組みを含めて、見せ場となるような技が3つ入っている。そのひとつめが、一人を二人の選手でブランコのようにぐるりと回転させ、その上をタンブリングで飛び越える技。もうひとつが、組みで投げあげられた選手の上を、時間差でもう一人が正面に向かってタンブリングで越えてくるという技。どちらも練習ではミスを見たことがないというほど完成された技だったが、予選ではその二つでミスが出た。ひとつめの技でブランコになった選手の上に、タンブリングしてきた選手が降りかかるような形になり、観客席からは悲鳴に似た声が聞こえた。そのショックを引きずったまま迎えたふたつめの見せ場でも、同様の接触。この状態から、もっともリスクの高いラストの組みを迎えることはかなり不安があったが、ここだけは気力でミスなく乗り切った。だが、演技終了後の選手たちの狼狽は明らかだった。今回の出来ももちろんだが、この状態で翌日の決勝を迎えることが、何よりも不安に思えた。

 

 予選直後の空気は「最悪」だったという。重たい空気が漂う中で、木原コーチはとにかく切り替えよう、と選手に話した。

 

「もう切り替えるしかない。負けは負け。この演技は半年やってきたんだから、この演技に携わってくれた人にしっかり見せないといけない」(木原コーチ)

 

しかし頭でそうわかっていても、人間はそう簡単にはできていない。何しろ不安要素でなかった場面での失敗ということが大きかった。ふたつめの見せ場でのミスは、完全にひとつめのミスを引きずってのものだった。それだけ、選手たちにはショックが大きかった。

 

 翌日、決勝を迎えたチームは、いつもより少しだけ静かだった。会場練習もやや硬い雰囲気で、ほぼそのままの状態で、チームは決勝本番を迎えることとなった。

 

 返事をしてフロアに入ったとき、予選を知っている観客は不安を覚えたかもしれない。だが、ピアノの旋律とともに選手たちが動きだすと、それはあっという間に消え去った。曲との同調、6人がひとつになった繊細な表現に、会場はひき込まれた。メンバーは集中というレベルではなく、もはや演技に没頭していることが分かった。

 最初の見せ場である、ブランコを難なく成功させると、木原コーチは「もういけるだろう」と思った。ラストの組みに関しては不安がないこともなかったが、予選で成功していたし、何よりもバランスの後、後ろを振り返った選手たちの表情を見て思った。「落ち着いている、大丈夫だろう」、と。1年にしてレギュラー入りを果たした日高大貴(たいき)は、演技の最中、「そろった時には気持ちよさがあって、演技中でも感じる」という。だとしたら、この演技の最中間違いなくそれは感じられたはずだ。終始高い同一性を保ったまま、福大はラストの組みまで、ノーミスで演技をやりきった。

 演技の間中、その静謐な雰囲気は一度たりとも途切れることがなく、会場を包み込んだ。会場の空気は澄みきって、清涼感さえ感じさせた気がした。それこそ、「雪」を思わせる空気だった。

 

 福大の演技は、組みに違いがあるとはいえ、西インカレで一度、インカレの予選で一度見ているため、決勝では実に三度目に見る演技だった。西から変えていないため、それなりに実施を上げてきていることはある程度予想していたことだった。にもかかわらず、決勝での福大の演技はその予想を上回り、さらに心を引き付けられるほどに完成されたものだった。2年の藤田悠輝は「組みが増えた上に、動きで意識するところが増えて。細かいところも頭に入れて動くので、大変になった」と話していたが、そうした実施をとことん追求した練習が、確かに実を結んだ演技だった。

 

 

 完成度を高めた演技は、以前よりインパクトのある作品として観る者の心に残った。実施を高めることの意義を、身を以て証明してくれた演技と言える。また、予選で大きなミスがありながら、決勝であれだけの切り替えをみせたことは、彼らの心の強さを証明した。恐らく福大が勝ち上がっていくために今後はタンブリングの難度向上などが課題になってくるだろうが、もしそこがクリアされれば、これほど恐ろしいチームはないかもしれない。だが勝敗以上に、これだけの世界観をもった「作品」を演じるチームは、これからも多くの人の支持と期待を受けるはずだ。


●2013全日本インカレ福岡大学団体動画

http://www.youtube.com/watch?v=ogcYhvc9Trs

 

Text by Izumi YOKOTA  Photo by Ayako SHIMIZU