「今の自分は、スポーツとアートの中間にいる感じ」~浅沼圭インタビュー

女子の新体操は五輪サイクルでルールが見直される。
今のルールは、2017年版ということになり、毎年少しずつ改変され、現在に至っているが、
2017年には、10点満点でそれ以上は切り捨てだったD(構成点)は、2018年から青天井になった。その結果、個人でも団体でもトップレベルだとDは15点を超えるような事態になってきた。
このD爆上げの主役となっているのは「AD」(手具難度)だ。手具操作と動きの組み合わせによって「0.2」「0.3」「0.4」という得点が与えられる。上位選手はこれを切れ目なくどんどん演技に入れて込んでくる。現在の世界チャンピオン・アベリナ選手(ロシア)などはその象徴のような選手だ。
日本の選手たちも、この苛酷なルールに果敢に食らいついている。
しかし、はたと気がつけば、新体操の魅力であるはずの「表現」や「芸術性」の部分は、かなり犠牲になってきている、と言わざるを得ないように思う。
2017年以降、いや正確には2018年から「ADをやればやっただけ点数になる」ことから、個人なら90秒しかない演技の貴重な数秒を表現に使うよりはADを入れておこう、いう傾向になったのだと思う。たくさんのADを入れればミスも増えるだろうに、それに挑戦しやりこなせている選手たちは本当にすごい。そのアスリートとしての能力、努力には脱帽するし、だから、演技を見ては感動するのだ。
が、「芸術性が損なわれている」という意見にも、たしかにそうかも、と思う面もある。

さらに、2020年の東京五輪後にはまたルール改正がある。
果たして、新体操はどこに向かっていくのか? 
一抹の不安を抱えていたときに、一人の、元新体操選手に会う機会に恵まれた。

浅沼圭。

チャイルドから東京女子体育大学の学生だったころまで、ずっと魅力的な演技を見せてくれた、あの時代のトップ選手だった。新体操の現役からは離れているが、ダンサーとして舞台には出ている。新体操で鍛えた身体能力を存分に発揮しつつ、新体操時代とはまったく違う「表現」の世界に挑んでいる。

※浅沼圭の過去記事 ⇒ http://gymlove.net/rgl/topics/report/2014/10/02/go-go-k-rg/

            http://gymlove.net/rgl/topics/gallery/2014/10/07/2014-143/

            http://gymlove.net/rgl/topics/report/2014/09/17/go-go-2015/

浅沼圭は、現役時代も観客を沸かせる選手だった。それだけに、新体操時代から「表現」にはこだわっていたような印象があった。しかし、実際はそういうわけではなかった、という。

『小学生のとき、イオンカップで初めて外国人選手の表現に触れ、観たことの無い表現に驚かされ興味を持つようになりました。その後、ビデオを擦り切れるまで見て真似をしました。

ジュニアで試合に出るようになったころ頃、合宿や試合でヨーロッパへ行き、異国の選手達と触れ合った時に、同い年とは思えないようなパフォーマンスと、競技中以外の友達のように話す姿の両方の自然体な姿に魅かれました。

それから自然体な新体操に魅力を感じ、「そして自分もやる!!極めたい(笑)」と思ったことを思い出しました。

その後、練習では、自然に踊れるようになるまで“身体との会話に集中する”こと、そして試合では、うまくまとめて小さくなることよりも“今日の調子を気持ち良く出す”やり方を意識していました。そのおかげで、普通なら取れないような投げを取ることもあったり、フロアからはみ出ることもありました(笑)』

新体操でもトップレベルの活躍をしていた選手だ。

ダンスの世界に飛び込んでも、身体能力的には不自由なかったのではないかと思うが、それも違うという。
 

『身体についてはこの数年、私の肝です(笑)。
 元々柔軟性があったので、小学生の頃、趣味の新体操から競技の新体操へと転向し、ルールに沿った身体づくりを通して、手具操作、身体能力、空間把握能力などを養っていきました。

現役を引退し、ダンスをやってみたいと渡英した時に“観たことのな自由な身体”を目の当たりにし衝撃!!

そして“この身体では何も通用しない!”と、自己嫌悪に陥り、、、

帰国して“全て0からやり直す!   自由になるぞー!!”という意気込みで、“身体表現”の世界に足を踏み入れ、今に至ります。』

そんな機会を与えてくれたのが、現在出演している舞台の演出・振付をつとめるダンサーの"森山開次氏との出会い"だという。そこから森山氏の舞台に関わることで多くのことを学んできた。

『開次さんの作品に関わることで、イメージを使って身体を動かすことに触れ、新体操をしていた時は知らなかった身体の使い方で、さらに自由に楽しくなりました。』


今ではそう言う浅沼だが、最初は戸惑ったそうだ。

『1番戸惑ったのは作品の演出で“泣き笑い”シーンを任されたこと。

そもそも感情を表現するのは苦手だったし、したことがなかったので、

とても難しかった!  このような表現方法で、作品が創れることを知り、「これを選手時代にできていたら、何をしていたんだろう〜!」と今更ながら想像することもしばしば(笑)』

今、現役の選手たちの中でも「表現」には苦労している選手は多い。ましてや、技に次ぐ技で余計な動きの入り込む余地のない今のルールでは、「表現」なんて無理と言いたくもなるが、どうすれば「表現」を伝えることができるのだろうか。

『新体操でいうとボールを転がす動き、 極端な例ですが、 一室の怪しい部屋で魔女になりきって“ボールを転がす”のと 飼い猫になって遊ぶように“ボールを転がすでは 同じ”ボールを転がす”でも場所も雰囲気も身体も違います。新体操のルールを大切にしながらも、どんなイメージで動くか、自分なりの表現のしかたを探すことが大事なんだ、と感じています。』

浅沼は言葉を続けた。

『スポーツにはルールがあるのでどこまで身体表現を入れ込むかは人それぞれ、表現はチャレンジする人の数だけやり方があるので、表現スポーツをしているからには是非、自分のやり方を探求して❝最高❞(笑)になって欲しいと思う!』

 

新体操の名選手だった浅沼圭は、すっかり表現者の顔になっていた。

現役引退後に、たくさんのことを学び、身につけてきたのだ、と感じられた。

『今は、母のクラブを手伝ったり、お声がけを頂いたクラブでワークショップや作品作り等をして、新体操に関わっています。

これからも子供達の一人一人がその子なりの表現方法を見つけるお手伝いをしたいと思っています。』

▼ワークショップなどのお問い合わせ先

wild.nature.child.keiasanuma@gmail.com

http://keiasanuma.jp

そしてもうひとつ。
浅沼圭が今、全身全霊を傾けている舞台「NINJA」を、より多くの新体操人にも届けたいという。

『この作品は、途中、新体操の技やリボンなどの手具も使いながら、舞台ではプロジェクトマッピングなどと融合した開次さんの世界観があふれています。シンプルに楽しい舞台になっていて、東京公演をご覧頂いた新体操関係者にも思いのほかとても楽しんでいただきました。
今、全国を巡っていますので、もしタイミングが合えばチェックしていただけると嬉しいです。様々な表現・可能性はもちろんのこと、純粋に身体を動かす楽しさに触れる貴重な機会を是非、子供達に見て欲しいです。このブログを通じて新体操の子供たちの可能性が拡がるきっかけになるといいなと思い、今回はジムラブさんにお声かけさせていただきました、大変感謝しています。』


今の自分を「新体操という競技スポーツと、アートのちょうど中間くらいのポジションにいる感じ」と言う浅沼圭は、「すっごく自由」な感じだそうだ。
この先もきっと、もっともっと自由に、表現の世界に羽ばたいていくのだろう。
ときには、彼女が身を置いている「表現の世界」に触れて、新体操をやっている子ども達、指導者たちもおおいに刺激を受けたいものだ。

そして、たまにはそっちの世界のお土産をたくさん持って、新体操にも里帰りしてくれたら、と願わずにいられない。


 

【「NINJA」今後の公演予定】

-●びわ湖ホール 中ホール (滋賀県)7月6日(土)14:00 
https://www.biwako-hall.or.jp/performance/2018/11/26/post-729.html
友の会発売: 4月 5日(金)10:00
一般発売: 4月 7日(日)10:00

●鳥取市民会館 大ホール(鳥取県)7月9日(火)18:30
http://cms.sanin.jp/p/zaidan/5/2/12/ 一般発売: 4月6日(土)10:00

●北九州芸術劇場 中劇場( 福岡県 )7月13日(土)14:00 
http://q-geki.jp/events/2019/ninja/ チケットクラブQ先行予約: 5月11日(土) 10:00
一般発売: 5月12日(日)10:00

●まつもと市民芸術館 (長野県)7月20日(土)18:00 21日(日)13:00 
https://www.mpac.jp/event/dance/29120.html 一般発売: 4月20日(土)

◆詳細は公式サイトをご覧ください。
https://www.nntt.jac.go.jp/dance/ninja/

TEXT:Keiko SHIINA       PHOTO:小田切明広/Ayako SHIMIZU(インタビュー)