RG AGAIN!~東川歩未プロデュース「Calendar」<後>
「Calendar」の練習を取材させてもらった日は、東川を含め5人しか集まっていなかった。
「全員集まれる日がほんとに少ない」と聞いてはいたが、なるほどこれでは苦労も多いだろうと感じた。
しかし、人数は少ないものの、そこでの練習風景は、真剣味に満ちながらも、どことなく同窓会のような和やかさも併せ持ったものだった。
東川歩未も、「新体操をやっていた、というだけの繋がりなんですけど、『なんかいい』んです。」と言う。
彼女もダンスやそのほか、新体操以外の世界を多く経験してきたからこそ、「新体操繋がり」ならではのシンパシーを改めて感じるようになったのだろう。そして、それは参加しているメンバーたちも同じく感じているのではないだろうか。
この日の練習に参加していた松下絵里菜は、会津ジュニア出身で、現在はパフォーマーをやっている。
新体操歴は、7年と比較的短いが、ダンスはかれこれ20年続けているという松下は、
「現役に近いみなさんからいい刺激をもらって自分の今後ダンサーとして成長できたらいいなと思って参加させてもらってます。」
と言う。
まったく同じ日に、同じスポーツクラブで新体操を始めたという青木里奈と御園悠希も、いっしょにこの舞台に立つ。
青木は、新体操を中断した時期もあったが、高校では光明学園相模原の新体操部に所属していた。卒業後は新体操からは離れていたが、縁あってショーで踊ったり、ダンサーとしての活動もしている。今回の舞台では、「ハロウィンの世界観を楽しみたい!」と言う。
御園は、福島成蹊高校の新体操部に所属していたが、卒業後は、出版取次の会社でOLとして働き始めた。現在は雑誌企画業務に従事しているが、一方で踊りから離れられず、4年前にジャズダンスを始め、舞台に立つようになった。「久しぶりに新体操をやりたいと思ったし、豪華メンバーで学べることが多いと思ったから。」というのが、今回参加することにした理由だが、「ダンスの中に上手く新体操を取り入れる方法はないかな?と考えていたので、この作品に参加することで、勉強したいと思いました。」とも言う。
そして、なんと言っても驚いたのは、つい昨年までバリバリの現役選手だった山口留奈も、この作品に参加するということだ。
山口は、説明するまでもないが、イオンの選手として昨年まで全日本選手権にも出場していた、元・全日本チャンピオンだ。昨年の全日本選手権で現役引退を発表し、周囲を驚かせたり、残念がらせたりしたが、その山口の姿がこの練習会場にあった。
現役を引退してからは、イオンなどで新体操の指導の仕事もやっているという山口だが、「新体操を引退してみて、やっぱり踊ることが好きでまだ踊りたいと思っている時にこのお話をいただきました。ダンス経験はあまりないですが、また何か楽しめる事が見つかるのではないかなと思い参加させてもらう事にしました!」と言う。それが新体操のフロアではないとしても、まだまだ、山口留奈は、踊る姿を見せてくれそうだ。
この日、楽しそうに練習をしていたメンバーにも、「どんなときに、新体操をやっていてよかったと感じますか?」と尋ねてみた。
松下「ダンスをしてる時に技を求められて、新体操の技が出来た時は新体操やっててよかったなって思います。」
青木「男ウケがいい、怪我しにくい(笑)。自分は何度か踊りから離れましたが、踊りをやっていたことで広がった世界があって、踊りとつながっていてよかったなと今になって思います。」
御園「本気になって頑張ればなんだって出来ると思えること。社会人になってからも仕事とは別に本気になれることを見つけられたこと、ダンスを始めるきっかけになった新体操に感謝しています。」
山口「沢山の仲間に出会い、沢山の人の温かさを感じられた事。」
それぞれ、言葉は違えど、やはり「新体操あっての今の自分」と感じていることが、伝わってきた。
みんなやはり、新体操が大好きで、踊ることが大好きなのだ。
このメンバーたちで、東川歩未は、果たしてどんな作品を創り上げようとしているのだろうか。
「同じ新体操出身といってもばらつきはあるので、それぞれの個性や得意なことを前面に出すために構成を工夫しています。舞台の広さの制限もあるし、なにより全員が揃う練習が少ないので、他の人の動きを想定して自分の動きを練習する難しさはありますけど。」
と言いながら、作品については、
「イベントのテーマが「カレンダー」なので、12か月をそれぞれのチームが表現するんです。うちのチームは、10月を担当するので、ハロウィンをモチーフにして作品を創りました。可愛いキュートなハロウィンではなく、おどろおどろしいダークな感じにしてみました。
かなりいい作品に仕上がってきたので、いずれ他のステージなどでも披露できたらいいな、と思っています。」と語った。
たしかに、練習を見ていても、ゴースやライトなど小物を使っていて、これを舞台で見れば、照明の効果もあるだろうし、幻想的な雰囲気が出せそうだ。舞台が狭いこともあって、手具は使わないようだが、その分、徒手の美しさが堪能できる。
新体操では常に動いているのに対して、今回のダンスは静止して見せる部分もあるので、新体操では伝わりにくい表情や身体の美しいラインが浮かびあがる。柔軟性には優れた元新体操選手達だけに、ハロウィンの妖しい雰囲気を体と動きで表現することができそうだ。
最後に東川歩未にも、ほかのメンバーと同じ質問をしてみた。
「どんなときに、新体操をやっていてよかったと思いますか?」
すると、東川はこう答えた。
「ダンスの現場で新体操の身体能力が重宝されることは多々あります。
それに、精神面でも新体操を経験してきたからこそのものはあるのかなと思います。すべての経験が今に繋がっているので、そう思うと常にですかね。新体操には感謝しています!」
今回、同じ舞台に立つメンバーもほとんどが、東川にとっては、「新体操の後輩たち」だ。
彼女たちに対して、さらには今現在、新体操をやっている後進たちに対しての思いを聞いてみた。
「自分の好きなことや興味のあること、やりたい表現等をいっぱいやってみたらいいと思います。
そして、やりたいことを口に出すことも大事だと思う。どんな辛いことも自分にとってマイナスになる経験は一つも無いと思います。
感謝しながら、楽しみながら、頑張ってほしいです。私も頑張ります!」
なにもかもが大きく違う10人のメンバーたちが、「新体操をやっていた」という繋がりだけで同じ舞台に立つ。
だけど、そこには思った以上の共通項があるのだろう。
そして、8月23日に、彼女達が演じる作品は、特別な輝きを放つに違いない。
なぜならそこには、彼女達が長い時間を懸けてきた「新体操」が根付いているから。
ダンサーとしてはまだまだ未熟な部分は多くても、「ただのダンス」では見せられないものを見せる!
その思いこそが、彼女たちの最大の共通項であり、東川歩未のこだわりではないだろうか。
PHOTO:Ayako SHIMIZU TEXT:Keiko SHIINA/Ayako SHIMIZU
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