SAGA2020 SSP杯新体操男子団体に向けて

2020年6月21日、佐賀県では「SAGA2020 SSP杯」の男子新体操競技が行われた。

会場は、神埼清明高校の体操場。

私はちょうど1週間前に、その練習場を訪ねた。

 

最後に高校生の練習を見たのは、去年の夏。

インターハイが3位で終わり、すぐに新チームに切り替えたばかりのときだった。

まだ10月のジャパンは残っていたが、神埼清明は8月の時点ですでに次を見据えていた。

「高校選抜までに鍛え直す」

中山監督はそう言っていた。

 

今年の3月に行われるはずだった高校選抜では、神埼清明がどう生まれ変わっているのだろう?

それがとても楽しみだった。

 

しかし、その期待は予想だにしなかった裏切られ方をした。

高校選抜は中止になり、神埼の演技を見ることはできなかった。

そして、その後、インターハイまでもが中止になった。

去年の8月にはもう「鍛え直していた」神埼の新チームを、こんなに長い間見られないとは。

想定外の事態だった。

 

久しぶりに訪ねた神埼清明の体操場は、いつもと同じだった。

いつもと同じ空気感の中で、粛々といつも通りの練習が行われていた。

ランニング、ストレッチ、そしてアイソレーション、徒手練習、タンブリング。

1週間後にSSP杯があるとは言っても、いつもの九州大会やインターハイを控えている時期の雰囲気とはやはり違う。

 

「緊張感はないな」と、中山監督も苦笑いしていた。

 

SSP杯には、神埼清明から3チームが出場する。

この日は、各チームに休みの選手がいて、どこも5人編制だったが、チームごとの練習に入ってからは

さすがに練習も熱を帯びてきていた。

 

Aチームには、3年生が一人入っていた。

副島琉矢。

新体操は、高校に入ってから始めた。

それでも、タンブリングはジュニアからやってきた選手たちにまったくひけをとらない。

徒手もきっちりしっかりしている。

神埼には時々(いや、割合頻繁に)こういう選手が出てくる。

副島は、今年になってからほとんどの試合がなくなってしまったことに関して、

「高校に入ってからずっと日本一を目指して毎日やってきたので悔しい思いはあります。

 でも、3年間やってきたことは無駄にはならないと思うので、この3年間で身につけたことは、これから生きると思います。」

と言った。

強い選手がジュニアからどんどん上がってくる中で、Aチームのメンバーに選ばれる力をつけることができたのはなぜなのか、を訊いてみた。

「自分でも想像していた以上に新体操にはまってしまい、自分でも驚くくらい努力しました。

 新しい技に挑戦してできるようになったときの嬉しさがたまらなくて、体育館にいるときだけではなく、家でも柔軟したり、トレーニングしたり、できる限りのことをやっていました。

 今までの自分の人生で、一番頑張れたのが新体操だったと思います。

 3年間でここまで頑張れたことは、自分にとって自信になりました。」

そう彼は胸を張った。

1週間後に迫ったSSP杯への抱負を訊くと、「みんなで悔いの残らない演技をしよう、と話しています。

この大会があることで、気持ちもかなり上がってきました。」と言う。

3年間でここまでできた自分、をこの舞台で見せるつもりだ。

 

Bチームにも、3年生がいる。

こちらも、新体操を始めたのは高校に入ってからという白石雅樹。

副島とは同じ中学だった。中学3年のときの担任が、神埼清明OBの木原正憲で、運動神経のよさを見込まれ、神埼を勧められたのだという。

木原の勧めで、中学のときに一度、新体操の体験に来てみたら楽しかった、それで入学、入部した。

次々にできることが増えて、楽しかった反面、ジュニアからの経験のあるチームメイトについていくのは大変で、つらい思いをしたこともあった。

とくに去年の7月。団体メンバーとして出場した九州選手権(国体ブロック大会※九州では男子も行われている)では、倒立で2歩歩いた。

それが悔しくて、悔しくて。その日から毎日、家でも必死に練習したという。

その甲斐あって、今では倒立で失敗することはほとんどなくなった。

SSP杯に向けては、「今年は大会が次々に中止になって、3年間目指していた目標がどんどん失われていって、それは悲しかったです。

でも、SSP杯を開催してもらえることになったので、そこで自分の集大成と言える演技をして、悔いが残らないようにしたいと思います。

倒立もタンブリングもミスなく終えて、最後はみんなで笑って終わりたいです。」と言う。

 

Cチームは、2年生が一人、あとの4人は1年生という布陣だ。今年の1年生はジュニアあがりの子がほとんどだが、まったくの未経験者も一人いる。

それでもすでに演技を通せるまでのチーム力になっているのだから、凄い。

1年9人、2年6人、3年3人、マネージャー6人で、現在の部員数は、24名。

この先も、神埼清明の選手層は厚い。

しかも、下には続々とジュニアが育ってきている。

この先の神埼には「死角なし」にも見えるが、中山監督は楽観はしていない。

たしかに今のジュニアたちは強い、凄い。それを認めつつも、やはり高校生に求めるものは違うのだと言う。

さらに言えば、大学生まで新体操を続けるような選手に育てるには、ジュニアでの経験の上に高校で上積みしなければならないものがある。

選手たちには、常にそれを言い続けているという。

この日の練習もいつも通りに終わった。

練習の最後には、みんなが中山監督の前に座って、話を聞く。

今年は何回もこうやって、大会の中止の報告を聞いたのだろうなと思うと胸が痛む。

が、今はもう誰も、そのことに捉われてはいなかった。

失くしたものはたくさんあった。それは間違いない。

が、今はもう彼らは前を向いている。次に向かっている。

SSP杯では、きっと笑って終われる演技ができるに違いない。

※SSP杯での演技は、saga plusにて近日公開予定。⇒ https://vd.sagatv.co.jp/

 

PHOTO & TEXT:Keiko SHIINA