社会人チーム・小林RG が追いかける「夢のつづき」<下>

近年、小林秀峰がもっともインターハイ優勝に近かったのが、2017年の山形だ。

出場23チーム中の18番目に登場した小林秀峰は、それまで誰も見たことのなかった組み技を成功させ、そこまでトップに立っていた青森山田高校を0.150上回る得点をたたきだした。

残るは5チーム。2008年以来のインハイ制覇は目前、と思われたが、20番目に登場した神埼清明高校が、わずか0.025小林秀峰を上回り、優勝。構成点は9.250で同点だったが、実施でわずかに神埼に及ばす、小林秀峰はこの年、限りなく優勝に近い準優勝となった。

このとき、会場中がどよめいた小林秀峰の組み技は、土台になる人の上に逆さまに人を乗せた高さのある組みを、他方の低い組みから人を飛ばして飛び越えようとして、高い方の組みにぶつかる、「失敗したのか?」と思いきや脚の間に挟むという驚異的なものだった。その様子は、「カニばさみ」とも言われたが、このときのチームにいたメンバーが3人、小林RGにいる。

 

当時高校3年生だった山下幹太は、あの技では、脚にはさまれる選手を飛ばす役を担っていた。高校卒業後は、1年間専門学校に通い、今年から地元・小林市で公務員として働いている。

「社会人で新体操をやるのは、すごく楽しい。高校時代は、監督から言われたことをやるので精一杯だったのが、今は、自分たちでいろんなことを考えながらできる。徒手ひとつでもどうすればもっとよく見えるのか、と話し合って自分たちで作り上げていけるのが面白い。」

と山下は言う。

また、「社会人大会に出れば、高校時代とはまた違った交流をいろんな人達とできるのかな、と、すごく楽しみ。」と期待している。

そして、自分たちが、地元で社会人チームをやっていくことで、小林でももっと多くの人に男子新体操を知ってもらいたい、さらに、男子新体操をやる人を増やしていきたい、と小林市の公務員でもある山下は、考えている。

 

山下とは同級生の兒玉勇斗は、あの技では高いほうの組みの土台をやっていた。飛んできた選手を脚ではさむ瞬間は土台にもかなりの負荷がかかるが、それを支える役だった。

このとき、一緒に土台をやっていた同級生の吉ノ薗琉以は、現在、青森大学で新体操を続けている。じつは兒玉も大学進学を考えなくもなかったという。しかし、ちょうどルール変更があり、大学で新体操を続けるには必須となってきそうな2回宙返りが当時はできなかったため、進学する決心がつかなかった。

それでも高校卒業後、小林市で会社勤めをしながら、中学生の指導を手伝ったりしているうちに、社会人でもやりたいという思いが強くなった。それも、ただやるのではない。高校時代にはあと一歩のところで届かなかった優勝を、社会人大会で勝ち取りたいと思うようになった。しかし、その思いには、高校時代とは少し違いが出てきた。

「高校のころは、“勝ちたい!”が一番だったが、今は少し違ってきた。もちろん、優勝を目指しているが、新体操をやっていることを楽しみたい、やっていて楽しいからやる! という思いが強くなった。」

この日の練習を見る限り、兒玉の身体能力は、大学でも十分やれただろう、と思うほど高く見えた。タンブリングも、かなり強い。高校時代にはここまで強さが目立つ選手ではなかったように思うが、今の兒玉はチームの中でもかなり目を引く存在になっていた。

「タンブリングは、高校時代よりも大技に挑戦している」という兒玉には夢がある。

「今回の演技では、第1タンブリングの締めを初めて任せてもらえました。ずっとあこがれていたので、すごく嬉しくて。1タンの最後の自分のタンブリングが決まったときに、観客がわくのが夢ですね。高校のときはできなかったことなので。」

 

あの組み技で、脚にはさまれていたのが当時高校2年生だった中野辰哉だ。2018年にも団体、個人ともにインターハイに出場した中野は、高校2年から3年にかけて進境著しかった。高3のインターハイでは手具落下などのミスもあり、個人15位に終わっているが、もう少し続ければ個人でもかなりいい選手になるのではないかと思わせるものをもっていた。

しかし、高3のとき、彼に卒業後の進路を訊くと、彼は、「自分は社会人でやります」と迷いなく答えた。その迷いのなさにはちょっと驚いたが、今、小林RGで高校時代からまったく衰えない動きを見せる中野を見ると、そういうことだったのかと納得がいく。

彼が、高校3年のとき、すでに兄・雄貴を中心とした小林RGが立ち上がり、県民大会にも出場していた。あのころから気持ちは決まっていたのだろう。

「高校を卒業したら、地元で社会人でやろう! と兄と決めていた。そうすれば経済的にも自立しながら、昔から知っている仲間たちと新体操を続けられる。そして、社会人でも日本一を目指したいと思った。」

そして、彼にもその先の夢があった。

「自分たちが社会人でも頑張ることで、今は少なくなってしまった小林のジュニアを増やしたい。新体操は高校まで、ではなく大学以外でも続けられて、ジャパンだって目指せるんだ! という希望があれば、始める子も続ける子も増えるんじゃないかと思う。」

 

フロアに立つ6人の他にもこのチームに関わっているメンバーがいる。

黒木一馬は、2014年東京インターハイのときの団体メンバー。小柄な体を生かして、「風車」と呼ばれている組み技でクルクルと回っていた選手だ。高校卒業後は、小林と隣接するえびの市で会社員をしながら、大会で審判を務めたり、去年は小林RGのメンバーとして県民大会に出たりもしたが、今年は監督としてチームに関わることにした。

「社会人はみんな自主的にやるので、自分は監督と言っても外から見て気づいたことを伝える程度。社会人チームには、自分たちでやりたいことができる楽しさがあると思う。小林RGも来年、再来年も続けたいし、宮崎には三桜もあるし、上江RGもできた。社会人になっても新体操を続けやすい環境ができていくとよいと思うし、自分もできることで関わっていきたい。」と言う。

この日、動画を撮影したり、マットの出し入れなど精力的に動いていた市原康成は、山下・兒玉の同級生。高校時代からサポート役を務めることが多かったという市原は、かゆい所に手が届くサポートぶりだった。

「社会人チームは少ない人数でやっているので、荷物持ちやマッサージ、練習のための準備など、選手だけでは回らないところを、自分がサポートすることでやりやすい環境を作れればと思う。」と言う市原は、とにかくみんなと一緒に体育館にいて、演技が仕上がっていくのを手伝うのが楽しいのだ。

 

練習中、「現役の高校生たちが練習しているのか?」と錯覚するくらい本格的に声を出して、選手を鼓舞していたのは竹本仁だ。中野辰哉とは同級生。この春、高校を卒業したばかりだ。

あまりにも本格的な声出しなので、とても一人で出している声とは思えなかった、と竹本に伝えると、「声出しは任されているんで」と胸を張った。

まだ、新体操に関わっていたいし、自分でも演技したい思いはある。今年の県民大会には個人で出場した。あわよくば、自分の練習をする時間も作りたいと思って体育館に来ているが、サポート役にもおおいにやりがいを感じている。

「このチームは、雰囲気いいし、みんなでまとまってやれるのがいい。大きな声が出ているほうが、みんなも気合入ると思うし、やりやすいと思うので、自分にできることを精一杯やってます。」

この日の練習で見た彼らの演技は、まさに「ガチ」だった。

練習は週に1回。それでも、これだけできるんだ! と驚愕するレベルの演技だった。

練習ぶりもまだ高校時代のそれに近い印象だ。

このチームはきっと社会人大会でも台風の目になる。

フロアに立つ人も、周囲でサポートする人も、それぞれに新体操に対する熱い思いがある。

そして、「高校までで新体操を辞めなくてもいい」という道を自分たちで切り拓こうというエネルギーがある。

この若い力が、きっと、男子新体操をより多くの人に広め、地域に根付かせていくのだ。

 

2009年以来休止になっている国体での男子新体操競技。

今、その復活が現実になりつつある。

それが現実になり、持続するためにも、彼らのような力は必要だ。

おそらく日本で一番、男子新体操経験者率の高い小林の地で、こういった動きが出てきたことは、男子新体操にとっての大きな希望となるに違いない。

 

※「小林RG」の活動を支援するクラウドファンディングはこちら!(6月21日まで)

 ぜひご支援をお願いいたします。

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TEXT & PHOTO:Keiko SHIINA

<写真提供:清水綾子>※2017年全日本選手権のもの