「自立」と「自律」~福岡大学男子新体操部

昨年の全日本選手権で男子団体3位となった福岡大学。

福岡大学はもともとは男子新体操の強豪校だった。日本一になったことも何回もある。

しかし、固定した指導者が不在で、練習場も体操競技部と兼用と決して恵まれた環境とはいえず、一時期は団体も組めないほどに部員が減った。

2009年に1年生が一気に増え、そこからは連続して団体でも出場が続いてきたが、環境には決して恵まれていないことは変わっていない。マットにのれる時間が少ないため、団体は床の硬い体育館のエントランスでタンブリング以外の練習を延々と続ける。マット上での練習に入っても、指導者不在の時間が多いため、選手たちは自分たちの動きを即座に動画で確かめ、お互いに意見を出し合う、または上級生がチェックし、注意を与える。福大では、今でもそんな練習風景を見ることができる。

そんなチームが昨年は全日本で3位になった。

大会前まで、とくに持ち上げられるでもなく、注目度は決して高くなかったが、予選、決勝と2本の演技を驚くほどの精度でやりきり、その演技が高いレベルにあることは誰の目にも明らかだった。

大会後に、当時のキャプテン・村上裕亮に話を聞くと、「全日本で自分たちの力を出し切ることのできる構成」を自分たちで考え、意見を出し合い、練りぬいた、その結果だとのことだった。昨年の福大の演技は、おそらく全員が「自分たちにはこれしかない!」という思いを共有していた。それが揺るぎない実施と、抜群の同調性に結びついていた。それは、カリスマ性のある指導者の存在によって生まれたものではなく、自分たちで培ったものであり、それだけに価値があると感じた。

昨年の福大の演技に、心を動かされた観客が多かったのは、おそらくその演技から彼らのそういう思いや姿勢が伝わってきたからではないかと思う。

しかし、昨年は4年生が中心となるチームだった。部員数は決して多いとはいえない福大が、今年もちゃんと団体を組めるのだろうかと案じていたが、それは杞憂だった。

福大には、今年、6人の新入生が入った。青森大、国士舘大に続き3番目に多い。

監督のいない福岡大学の男子新体操部は、スカウティング力もあるとは言えない。「あの先生に声をかけられたから」が、進学の決定打になるようなことがない。

それでも、6人の新入生を迎えることができたのは、彼らの演技や、その自立した練習ぶりに、「ここの一員になりたい!」と思わせるものがあったからに他ならない。

「誰かにうまくしてもらう」のではなく、自分たちの力で上がっていく。その一見、険しく遠回りに見えるが、じつは非常に実りの多い道を選ぼうとする高校生が、こんなにいたのか! それは嬉しい驚きだった。

5月、西日本インカレを控えた福岡大学の練習を見に行ったが、この日は、フロアマットが20時~21時の1時間しか使えないという変則的な練習の日だった。

そのため、彼らは、体育館の隅でひたすら動きの合わせをやっていた。

主に指導しているのは原田政樹だ。4年生になった彼は、「正しい体操」「福大らしい動き」を後輩たちに懸命に伝えようとしていた。彼もまた、3年前にはそうやって先輩たちから教えられ、年々力をつけてきていたのだ。「福大の新体操」は、こうして引き継がれてきたし、これからもそうなのだ、きっと。

福岡大学の男子新体操が、こういう自立した活動で、結果を出してきたことや、新入生を集めることに成功していること。これは、まだ部員数が少ない部や、これから男子新体操を部活動で始めようとしている学校、恵まれているとはいえない環境で活動している部などにとっての希望だ。このところ、どんどん存在感を増してきている同志社大学にとってもおおいに刺激になるだろう。

そして、保護者にとっても、男子新体操を大学まで続けるうえで、「日本一になれるかどうか」「脚光を浴びることができるかどうか」「練習環境が整っているかどうか」だけではない選択の基準もあるということを教えてくれるのが福岡大学だ。

昨年の4年生の一人・大坪俊矢は、現在、福岡大学の大学院に籍を置いており、可能な限り、後輩たちの指導にあたっている。

古くは江口和文、木原正憲らも同様に大学院に通いながら、指導をしていた。怪我でフロアに立つことができない上級生が松葉杖をつきながら、指導していたこともある。昨年も全日本インカレ後から全日本選手権に向けては、大坪の献身的なサポートが大きな力になったと村上も言っていた。それだけ部員からの信頼も厚い大坪が大学院に進み、福岡に残ってくれたことは選手たちにとっては心強いに違いない。

今の福大は、そういう先人たちの尽力のもとに、成り立っている。そして、そのことを現役選手たちもよくわかっているから、自分たちにできることを精一杯やるし、「福大の新体操」を守ろうという思いが強くなるのだ。

西日本インカレ。

今年の福大団体は、まだフレッシュだ。成熟はしていないかもしれない。

が、彼らはこの経験を生かして、夏までに、秋までにさらなる成長を見せてくれるはずだ。

まずは今の彼らの全力を、この大会で出せることを期待したい。

PHOTO & TEXT:Keiko SHIINA