2017全国高校総体に向けて⑥~福岡舞鶴高校(福岡県)

創部21年目にして高校総体初出場を決めた福岡舞鶴高校を訪ねたのは6月12日のことだった。

この日はテスト期間中だったが、総体出場権のかかった九州ブロック大会を2週間後に控えていたため、午後4時から2時間ほど練習するというので、訪ねてみた。

体育館をのぞくと、そこで練習しているのは女子のバレー部だった。

新体操部は? とよく探してみると、体育館の一番奥のステージ上にマットが敷きつめられていて、そこに部員たちが集まっていた。

フロアマットがないとは聞いていたが、ないのはマットだけでなくスペースも、なのだ。

「え、ここでやるの?」と驚いたのは、2011年に初めて行ったときの袖ヶ浦高校(千葉県)、東福岡高校(福岡県)以来だった。

今年は、高校選抜、全日本男子団体選手権と試合ごとに評価が高まり、「今年こそは高校総体出場か?」と目されていた福岡舞鶴高校が、この環境で練習していたとは。かなりの衝撃だった。

ステージの上は決して広くない。

タンブリング板を敷いてはいるが、十分に助走がとれないので、いわゆる舞台袖の部分にスタート位置がはみ出している。そんな練習場所で、彼らはストレッチを素早くすませると、すぐさまタンブリング練習に入っていった。

その練習ぶりを見ていてまず感じたのが、「よく声が出ている」「声が大きい」ということだった。いや、もしかしたら、狭いところに選手たちが密集しているので大きく感じただけなのかもしれない。それにしても、彼らは練習中によく会話をしていた。もちろん、無駄話ではない。お互いのタンブリングについて、よく見、よく注意をし合っているのだ。

そういった会話の多さも含めて、「声が出ている」と感じたのかもしれない。なんだかとても活気のある賑やかな練習だった。

一通りタンブリング練習が終わると、なんとこのステージ上で組みの練習をやるという。

キャプテンの辻岡が土台の上に乗り、飛ばされる。この技をおそらくいつも通りの手順なのだろう。いくつかの段階に分けて、確認しながら行う。少し狂いがあれば修正し、最後には納得のいくものができたようだった。

 

ここまで約1時間くらいだったろうか。

バレー部の練習が終わり、新体操部員たちはぞろぞろと体育館の床面に降りていった。

曲かけの機材なども一緒に運ぶ大移動だ。

バレー部がいなくなると、やっと彼らは体育館を広々と使えるようになった。しかし、これもこの日はテスト期間中で他の部活が休みだからだという。普段ならこんなに早くから体育館を使えることはない。

やっとフロア面と同じ広さで動けるようになり、さっそく分習が始まった。

が、人数が5人しかいない。あれっ? と思って見ていたら、辻岡が抜けていた。

抜けて他のメンバーの動きをチェックし、修正を指示し、最初のパートを何度かやり直したあと、今度は辻岡も入って動いてみる。レギュラー以外の選手が、動画を撮り、今度はメンバーみんなでそれを確認する。

この時間は、まだ監督の中村優太は体育館に来ていなかった。

テスト期間中で忙しかったのだろうが、普段からなかなか体育館にいる時間を長くはとれないという。たしかに彼らの自律的な練習は、一朝一夕にできるものではない。

いい意味で、監督頼みではない。そんなチームに見えた。

今年の福岡舞鶴のメンバーは全員が3年生だ。すでに2年以上いっしょにやってきた、同じ年の仲間たち。そういう気安さもあるのだろう。彼らは、本当に率直に意見を言い合う。「おかしい」「やりにくい」など必要なことはきちんと伝え合う。

彼らはきっとこうやってこのチームを作り上げてきたのだ。ほんの短い時間、練習を見ていただけで彼らが歩んできた道のりが見えるような気がした。

休みなく次々と動いていくので、かなり長い時間のように感じたが、おそらく30分くらいたったときに、やっと中村監督が現れた。

自律的に練習できる選手たちではあるが、やはりいざ監督が来れば、監督に確認してほしいこともある。判断を仰ぎたいところもある。だが、彼らは、監督がいない間に、そういった問題点を自分達で洗い出している。だから、監督が来てからの進みが早い。

いくつかのパートを監督に見せて、確認や手直しを終えると、本番さながらにコールから入る通しが始まった。もっとも、硬い床の上での通しなので、タンブリングや組みはほとんど抜いてある。

動きのひとつひとつは大きく、スピード感もあり、ドラマチックだ。

「福岡舞鶴ってこんなにうまかった?」と全日本団体選手権後にずい分話題になっていたが、まさにそう感じさせるだけの演技を彼らは見せてくれた。

3分間の演技を終えると、普通ならすぐに監督のところに選手たちが寄ってきて、講評を聞く。ところが、舞鶴の選手たちは、息を弾ませながら戻ってきて、みんないきなり水分補給を始めた。そして、すぐさま思い思いの方向に向かって、それぞれ側転を始めた。

あっけにとられているうちに、彼らは何回も何回も側転を繰り返す。

そして、顔は真っ赤になり、ますます息があがってきたところで、もう一度、水分を補給し、さっと演技開始の位置についたのだ。

「まさか」と思っていると、曲がかかった。

それから彼らはもう一度、3分間の演技を通したのだった。

それはかなり過酷な通しだった。精度は1回目より落ちていたと思う。

ときに足のふらつきも目に留まった。

それでも。

顔を真っ赤にしながら、肩で息をしながら、彼らはなんとか2回目の通しを終えた。

よい出来とは言えなかったかもしれないが、大惨事にはならずに持ちこたえた、そんな通しだった。

タンブリングや組みなど、危険と隣り合わせの男子新体操では、こういう追い込み方の練習はあまり見ない。たとえその日の練習が良くない状態で、最後の通しが不満足なものだったとしても、めったに「もう一度」ということにはならない。女子ではありがちな「ノーミスが出るまでやる」なんてことはまずない。

それを男子でやれば、大怪我、大事故につながるからだ。

どうしても通しが1回で終われない状態だったとしたら、次の通しまでのインターバルをかなりとる。今まで見てきた男子の練習はそうだった。

だから。

この福岡舞鶴の練習には衝撃を受けた。

男子が、息が上がった状態のままで通すのなんて見たことがなかった。

それだけに、なんだか胸がいっぱいになった。

 

後で中村監督に聞いたところ、この練習は「タンブリングを入れた通しができないこと」をカバーするために考えた方法だという。普段の練習ではタンブリング抜きの通ししかできないため、いざタンブリングを入れて通すと、1本通す体力がない。そこをカバーするために、1本通したあと、あえて体力を消耗させ(この日は側転を繰り返していたが、全力疾走などを試したこともあるそうだ)、さらにもう1本通す。この2回目の通しがちゃんとできるくらいの体力が本番の1本には必要なのだという。

それでも、これだけきつい練習をしていても、本番通りの通しを普段からはできないチームにとっては、やはりタンブリングも組みも入れてノーミスで1本通すのは難しい。

それを高校総体出場の懸かった大一番というプレッシャーの中でやるのは、並大抵のことではない。

だからこそ、テスト期間中でも、彼らは一刻も無駄にしない意気込みで、約2時間の練習を、まさに全力でこなした。翌日もテストがある。家に帰ればテスト勉強も待っている。

それでも、九州大会までの残り2週間に懸ける彼らの思いは十分すぎるほど伝わってくる練習だった。

帰り際に、辻岡に、自分たちの強み、見せ場はどこかと聞いてみた。

「1タンでの6人全員での伏臥。とにかくタンブリングを見てほしい。」という答えが返ってきた。

普段は、タンブリングを入れた通しができないのに、タンブリングを見せたいとは、ちょっと意外な答えだったが、彼らはとにかくタンブリング練習が大好きなのだそうだ。好きだから、みんなでわいわい盛り上がって練習し、高校から始めた子もどんどん難しいタンブリングまでできるようになってきた。

フロアマットもない練習環境だが、タンブリング板はあるし、2年前にはエアマットも揃えてもらった。通しでの練習はできなくても、タンブリングはやってきたという自信があるのだ。

 

数時間前に見た、ステージ上での彼らのタンブリング練習を思い出した。

たしかに、彼らは本当に楽しそうに練習していた。あの空気の中で、彼らは、みんなでタンブリングに磨きをかけてきたのだ。

 

果たして。

2週間後の九州大会の公式練習ではかなりマットに合わせるのに苦労している様子が見られた。

ちょっとしたふらつきがあったり、床での練習ではほとんど見られなかった鹿倒立の失敗も何回かあった。

慣れないマット、さらに極度の緊張。

あれだけ練習してきても、本番に力を出し切ることは難しいのかもしれない。

そう案じるような公式練習だった。が、本番直前の最後の公式練習ではやっと本来の力が出せていたように見えた。選手たちの表情も落ち着いてきていた。

「これはいけるかも」という兆しが見え、本番の演技を迎えることができた。

フロアに立つ選手たちも緊張するだろうが、選手を送り出し、見守る中村監督もどれほど緊張しているだろう、と思いながら演技を見ていた。が、九州大会での福岡舞鶴の演技には、なにかに守られているような安定感があった。「気迫」としか言いようのないエネルギーが伝わってくる演技だった。

そして、この緊迫した場面で、演技を後ろから見守っていた中村監督はじつに穏やかな表情をしていた。

おそらくその瞬間、勝ち負けや、高校総体の切符のことはどうでもよくなっていたのかもしれない。ただ、この3年間でここまで成長した彼らのこの演技を見ることができて、中村監督は嬉しくて、選手たちのことが誇らしかったのではないだろうか。

そして。

福岡舞鶴高校は、この演技で九州大会4位となり、悲願の高校総体出場を勝ち取った。

さらには、理事長が、「高校総体出場が決まったら」と約束していたというフロアマットの購入も実現した。

 

ただ、あの日、あの体育館のステージや、硬い床の上での彼らの崇高なまでに懸命な練習を見ることができたことは、幸せだったと改めて思う。

この先、福岡舞鶴がもっともっと強いチームになったとしても、2017年のこのチームのことを私はきっと忘れないだろう。

 

PHOTO & TEXT:Keiko SHIINA