2014体操ワールドカップ東京大会 公開練習レポート

今週土曜日の5日に開催されるTOKYO CUP2014 の公開練習が、会場となる東京体育館で3日に行われた。

出場選手の紹介も兼ねて当日の演技順で練習の様子をまとめた。

 

◆男子◆

Sergio Sasaki Junior(BRA)

彼は昨年のワールドカップ東京大会にも出場していた選手の一人だ。 昨年秋に開催された世界選手権でも個人総合で5位入賞を果たした、ブラジル期待の注目選手である。彼の魅力はなんといってもパワフルで雄大な演技。 本日の練習でも演技の大きさは群を抜いていた。特にゆかと跳馬では、高さと力強さに改めて驚かされた。 また昨年の大会では、平行棒の着地の振動で協賛のパネルを倒していたことも印象深い。こういったパワフルな演技をする選手は日本ではなかなか見られないタイプなので、ぜひ会場でそのパワーを感じてほしい。

内村航平

個人総合絶対王者で、他の選手やファンからもキングと呼ばれるほど。オリンピックを含む世界選手権では5連覇中。 いちファンとしても彼の演技をリアルタイムで見られる時代に生まれてきてよかったと思えるほど。 今回の練習でも他の選手に比べて器具に触れていた時間は圧倒的に短かったが、会見ではとても調子がいいと語っていた。いや、調子がいいからこそ、少しの練習でも十分なのであろう。 その僅かな練習は周りの選手、報道陣の視線を釘付けにした。何よりもきれいな演技に誰もが目を奪われた。彼が演技をする周りを、各国の選手が囲ってじーっと見つめていた。それだけの選手なのだ。 彼を見るだけでも会場に足を運ぶ価値は十分にあると言える。

Shixiong Zhou(CHN)

昨年秋の世界選手権ではゆかで種目別4位となった選手、 中国はロンドンオリンピック終了後に一気に主力選手が引退してしまったが、近頃また若手の選手が国際大会で成績を残してきている。彼もそのうちの一人。 他の選手より早めに会場で練習していた。やはりゆかではコーチと2人で動画を録ったり、念入りに確認していた。 個人的には、ひねりに入る前の上半身の動かし方が独特だと感じた。

Fabian Hambuechen(GER)

ドイツのベテラン選手。社交的な性格や、日本が好きということでも有名な選手。 ロンドンでは前年の怪我に悩まされ、個人総合では思うような演技ができなかったが、昨年の世界選手権では個人総合で内村選手、加藤選手に次ぐ3位に入り、熱戦だった鉄棒では2位となり、完全復帰を果たした。内村選手とは10代の頃からトップ争いをしてきた選手だ。 そんな彼は本日も真っ先に各国の選手に話しかけていた。選手やコーチだけでなく協会の方にも挨拶をしており、練習からも彼の人柄が窺えた。 移動でのトラブルもあったようで、本日は少し力を抜いた練習のように見えた。 と、いうよりは、全体的にあまり演技がはまっていないように見えたのだが、力を抜いているだけだと思いたい。そして、疲れを溜めずに本番を迎えられることを願いたい。

Daniel Purvis(GBR)

イギリスのオールラウンダー。近年のイギリスを引っ張ってきた選手といっても過言ではないだろう。 彼は内村選手に憧れていると公言しているだけあって、きれいで誠実な演技をする。特にゆかでは、シリーズの最後に繋げる鹿ジャンプが彼特有の雰囲気を醸し出している。特別目立つような技こそないが、ひとつひとつをまとめようとする誠実さがとても素直に伝わってくる、言うなれば英国紳士のような演技が特徴的。 本日の会場でも、彼の倒立は一際美しかった。主張せずに静かにそこにあり、空気をかき乱さないつま先。平行棒で内村選手と交互に練習する様子は、そこだけ神聖な空気が流れているようだった。 大会当日も彼のつま先に酔いしれたい。

Fabian Gonzalez(ESP)

この選手も昨年の大会に出場した選手の1人。 他の選手より背が高く、その長い脚を生かした演技に注目したい。ゆっくりとした大きな演技は、それだけで華やかさを感じる。 鉄棒では車輪ひとつでも、他の選手にない世界観をつくることができる。彼も特別に目立つような技をもっているわけではないが、彼なりの素晴らしさがある。 彼らしい演技に期待したい。

加藤凌平

昨年の世界選手権で内村選手に次ぐ2位という好成績を残した、期待の選手。 自身も語るようにじわじわと内村選を手追いかけている様子が今まさに、感じられる選手だ。 練習の序盤ではつり輪をかなり入念にやっていたが、どうやら最初の握りが上手くいかなかったようで、技には問題ないそうだ。 その後も練習を見ていると、どうやらつり輪だけでなく他の種目も、他の選手より多めに時間をとって確認しているようだった。会場入りが早かったのもそのせいかもしれない。 跳馬も何度かロペスを決めており、今のところロペスを跳ぶ予定だそう。最後の鉄棒では少し疲れも見られたが、納得いくまで練習を続ける姿が印象に残っている。

Sam Oldham(GBR)

彼もパワフルな演技が特徴的だが、Sasaki選手とはまた違った力強さだ。脚は決して太くはないのだが、素晴らしい脚力で高さのある跳躍が魅力的。 本日も、ゆかで素晴らしいタンブリングを見せた。思わず声が出るほどの高さ。 ただのパワーだけでなく、華麗さもあるのが彼の特徴。あん馬でも速めの旋回にすらっと伸びた脚が美しく、引きつけられた。 演技だけでなく顔立ちもきれいで、これからファンが増えていきそうな選手だ。

 

◆女子◆

Vanessa Ferrari(ITA)

イタリア体操界を長い間支え続けているベテラン選手。今もなお国際大会で上位につけ、昨年の世界選手権ではゆかで3位となった。素晴らしい表現力で人を引きつける演技をする。 昨年の大会にも出場する予定だったが、コンディションが整わず棄権となった。 本日、全体を通して調子は悪くなさそうだった。ベテランならではの安定感があった。 その中でも、ゆかは特に熱心に練習をしていた印象だ。曲かけで練習していたのだが、何度も何度も確認をしていた。印象的だったのは、同じ曲かけ練習でも振りだけを確認するものと、タンブリングをメインにやるものとでわけていたことだ。 個人的に彼女のゆかはとても好きで、あの彼女にしか出せない表現が何度も繰り返し見られたのはよかった。上半身をとても動かしており、その動きから溢れ出るものがあるのだ。 ルールが変わってから曲も歌入りのものになり、構成も少し変わったので、昨年の世界選手権のものと比べてみると面白いかもしれない。 この選手の演技が日本で見られるなんて、夢のようだ。オールラウンダーでゆか以外にも見所はたくさんあるので、ぜひ会場で彼女の表現力を感じてほしい。

Victoria Moors(CAN)

自身の名前がついた、最高難度I難度の技(ゆか)をもつ選手。昨年の世界選手権ではゆかでの活躍が期待されたが、まさかのミスで予選落ちしてしまった。 昨年末に来日、豊田国際競技大会に参加し、見事なゆかの演技を見せてくれた。そのときの記者会見では気さくな話し方が印象的だった。 やはり練習でもゆかは何度も確認していた。軽くアップをした後に曲かけ練習を始めたのだが、最初の1本目のI難度ムアーズは大きく崩れてしまった。そこで集中が途切れてしまったのか、一度中断させてからもう一度コーチと確認して、頭から曲をかけて2回目の挑戦。2回目の挑戦ではすこし跳ねてラインオーバーもあったものの、技自体は成り立っていた。その後もひとつひとつのタンブリングを確認していた。 平均台ではターンが特に引っかかったようで、これも何度も何度もコーチとやりとりしながら確認していた。周りの選手が練習をやめてしまっていても、1人黙々と続けていた。その姿を見て、豊田国際での会見でも練習をとにかくすることが上達することだ、と言っていたことを思い出した。

Roxana Popa Nedelcu(ESP)

この選手は個人的に今シーズンから注目している選手だ。まだまだ若い選手だが、決して強いとは言えないスペインから強力な新生が現れた、といった感じだろうか。 国際大会でもトップ選手と競えるほどの技術で、まさに期待の新人である。 本日は全体的にかなり軽めのアップで終わってしまったので、調子は読みにくいのだが、表情も柔らかく、悪くはなさそうだった。 彼女も彼女なりの世界観がもうすでに形成されているので、本番で演技を見るのはとても楽しみだ。

Kim Bui(GER)

ドイツの選手。選手の棄権などが相次ぎ、急遽参加を決めてくれた。 ドイツ女子とえばエリザベス選手が引っ張ってきたという印象があるが、Kim選手も一緒に支えてきた存在である。 彼女は特に他の選手に比べて自分のペースを守って練習している印象が強く残っている。焦るわけでも、流されるわけでもなく、淡々と、かつ丁寧にこなしていた。 ひとつ間違えたら陳腐な雰囲気になってしまいそうなゆかの曲だが、なんとも素晴らしい振付でそのイメージをがらっと変えた。何よりそんな振付を踊りこなして自分のものにして、どんどんいい方へ持っていく。練習ながらも感動してしまった。 元々全体的にバランスのいい選手なだけに、目立たないと思われがちだが、そんなことはない。ぜひ彼女の踊りを堪能してほしい。

美濃部ゆう

ロンドン五輪、2013年世界選手権代表選手。女子選手の中では世界的に見てもかなりのベテラン選手。そんな中、現役を続けているだけでなく、代表選考で代表の座を勝ち取ってしまうのだ。 彼女のイメージはとても集中力が高い、ということ。この日もとてもいい緊張感と集中で調子はよさそうだった。平均台に定評のある選手で、やはり平均台は海外の選手と比べても圧倒的に安定していた。空を切るような実施が見られ、大会当日が楽しみだ。 ゆかはそんなに難度が高くないため、点数も世界で戦えるほどではないのだが、曲かけ練習でさらに大会当日が楽しみになるようなことを発見。 なんと、新しい曲だったのだ。今回から歌付きも使用可能になり、美濃部選手はさっそく歌付きのものを選んでいた。今回の演技は大人っぽくてしなやかだ。個人的に彼女の腕の動きが好きなのだが、今回の雰囲気ととてもマッチしていた。 新しいゆかの演技を、ぜひ楽しみにしておいてもらいたい。

寺本明日香

ロンドン五輪、2013年世界選手権代表選手。そして、昨年のワールドカップ東京大会の優勝者である。日本女子の期待のエース、といったところだろうか。 若いながらにミスをしない抜群の安定感もち、成長することに貪欲で常に顔を上げて真剣なまなざしで体操に向き合っている、というイメージの選手。 段違い平行棒と平均台が得意とされているが、跳馬もスコアを上げにいっているし、何よりも彼女のゆかの演技が訴えるものにいつも心を奪われてしまう。以前、本人は苦手意識がある、と言っていたが、むしろその思いがプラスの方向に向いている。それができるのが、彼女の最大の魅力だと思っている。マイナスのものが、絶対にプラスになる。プラスにする力がある選手なのだ。 公開練習では多少足元を気にする様子が窺えたが、いい集中を保っていた。跳馬を何度も気にしていたことと、段違い平行棒で倒立にうまくはまらないところがあったのが少し気になる要素。 昨年末の豊田国際で怪我があったので、そこからの様子が窺える大会になるだろう。

 

今大会の1番のみどころは、やはり世界選手権男子個人のメダリストが3名揃うというところではないだろうか。

また、女子も世界選手権出場メンバーが多く揃った。さらに、今シーズンから解禁となった歌付き楽曲によるゆかにも注目したい。

 

TEXT by Umi    PHOTO by Keiko SHIINA