第67回全日本体操団体選手権:男子決勝①

 

 

11月3日、幕張メッセで行われた全日本団体選手権。男子決勝も熱い勝負になった。
やはり学生チームが見せた、学生らしい勝負が印象に残る。
 
女子ではチーム一丸となって感動的な演技を見せたが、それだけでは勝負には勝てなかった日本体育大学。
体操の厳しさを教えられた女子決勝だったが、その分、固く結ばれたチームとしてのパワーが、男子決勝で花開く。
女子決勝の時点でもすでに熱気あふれる応援だったが、悔しい思いをしたためか、
まさに女子の分も!と言わんばかりのさらに熱い応援に、チーム力が感じられた。
 
予選4位通過の日体大はあん馬からのローテーション。
ここでは武田一志選手が見せる!
 
日本人選手ではなかなか見られない開脚旋回が客席をどよめかせ、視線を一気に集める。
もちろんわたしも見とれてしまった。
とてもダイナミックな動きをしているのに、停滞もなくスムーズな旋回で、思わず「かっこいい……」と声を漏らしてしまった。
見た目のインパクトこそ強いが、そこで目を引かれると今度は美しさにうっとりしてしまう。
そして、むしろ彼はインパクトで見せる演技など最初からしていなかったことに気づかされる。
 
 
その後のつり輪でも、決めるところはきっちり決めてくる、メリハリのある演技で、
着地も1歩にまとめ、15.050の種目別でも朝日生命の岡村選手に次ぐ4位というハイスコアを出す。
 
日体大にとって1種目目、あん馬最終演技者の岡準平選手も、とても綺麗な実施を見せ、種目別5位の高得点をたたき出す。
日体大チームにとっても、好スタートを切るきっかけと言ってもいい演技をした。
そのいい演技の感覚のまま、彼にとって2種目目である跳馬も素晴らしい実施。
Dスコア6.0という難度の高いロペスを跳び、着地も1歩でおさめ、この日の最高得点をマーク。
跳馬では難度の高い技に挑戦した他の選手が皆ミスをしてしまっている中、
この技でここまで完成度の高い実施をしたのは彼だけだった。
また岡選手の演技によってチームが勢いづく。
 
 
その後の鉄棒、ゆかでも大きなミスはなく演技をまとめ、チームに貢献したように見えたのだが、
大会終了後のインタビューでの「自分的にはあんまりよくなかったけど、チームに助けてもらった。
自分が出場した4種目中2種目で望んでいた点がとれなかったのが悔しい。」という言葉を聞いて、
団体戦ではあるが選手はそれぞれで自身の目標を持って試合に臨んでいるということ、
そして選手個人の意識が皆とても高いのだということをひしひしと感じた。
体操競技の特質かもしれない。
そして「来年はもっといい演技をして点を上げていきたい。そのためには冬の練習がカギになる。
今、自分にできることをしっかりやっていきたい。」と語り、順天堂大学との勝負については
「インカレで負けた順大に勝てたのはよかった。練習の段階から順大には絶対負けないと思ってやっていた。
その気持ちが実を結んだんだと思う。また来年、チームで優勝を狙いたい。」と、岡の気持ちはもう来年に向いていた。
 
1年生ながらチームに貢献した神本雄也選手。
彼の最初の種目はつり輪。彼も1種目目から素晴らしい演技をし、
先輩たちがあん馬で切ったスタートダッシュをさらに加速させる。
どっしりしたまさにつり輪らしい演技。着地もピタリと決める。
14.650とチーム内では低い得点だが、Eスコア8.750という数字を見てもわかるように、ミスのない実施で、
次に繋がるいい演技だった。
 
 
そして2種目目は彼の代名詞と言える平行棒だが、倒立がなかなか上手くはまらなかったり、
手をずらしてしまう部分が多く見られたりと、細かいミスが目立った。
それでも大過失こそなかったが、本人は演技終了後も不本意そうな表情。
彼としてはここで点をとりたかっただけに悔しいのだろう。
終了後のインタビューでも「結果は順大を倒せたけど、自分は調子悪くてチームに助けられた。
つり輪はよかったけど、平行棒はもう少し点をとりたかった。」と語っていた。
その後の鉄棒でも平行棒の影響か前半は停滞が多く見られた。
しかし後半にはスピードに乗り、演技をまとめる。
チームとしての結果については「東インカレも、インカレも、全日本も順大に勝つことが目標だった。
嬉しいけど、でもまだ2位。」とまだまだ先を狙っていくと思わせる発言。
今後については「世界選手権の代表に入って、個人総合でも狙っていける選手になりたい。
そのためにも、少ないゆかとあん馬の技をこの冬に覚えて戦っていきたい。」と先をしっかり見据えていた。
 
そして日体大男子キャプテン瀬島龍三選手。
彼もつり輪からの演技。第1演技者として、さすがキャプテンと言わせるような見事な実施を決め、続く選手を勢いづける。
1 種目目トップバッターにして着地を止め、武田選手に次いで種目別5位となる15.000の高得点。
その後の跳馬でも大きな実施で着地は小さく1歩。平行棒でも彼らしい丁寧で大きな演技をし、着地もピタリ。
 
 
そして、名勝負となった最終種目ゆか。最終演技者のキャプテン、というのは女子と全く同じ展開。
数時間前に行われたあの女子決勝の記憶がよぎる。
 
5種目終えた段階で0.1点差。
会場全体から胸の鼓動が聞こえているかのようだった。
それほど見ているわたしでさえも緊張していた。
その中で、あの池尻麻希選手と同じく、高さのある素晴らしい演技をする。
ほぼノーミスの演技。
キャプテンとして最後を締めくくるに相応しい演技。
緊張している会場、応援団、自身を振り切る演技。最後の着地を終えると大歓声がわく。
その応援に大きく大きく応える瀬島選手。
そして、今度は空気やチーム力だけでなく、点数でも順天堂大学を振り切った。
これで、本当に強い団結力が花開いた。
 
男女そろっての銀メダルも、2位という数字の印象よりもむしろチームとしての強さを表しているようだった。
本当の団体としての優勝は男女合わせた「日本体育大学」なのかもしれない。
 
 
2連覇を期待された順天堂大学。
惜しくも3位という結果になってしまったが、ボロボロだったというわけでは決してない。
むしろ調子は良かったように見えた。予選2位の順天堂大学はゆかからのローテーション。
 
最初の種目で第一演技者の今林開人選手。
大きいのにとても繊細な演技で、綺麗にまとめる。その繊細さはあん馬ではより光る。
圧巻。彼のあん馬こそ魅せる演技。
 
 
そしてつり輪からの演技だった野々村笙吾選手。
最終演技者である野々村選手は加藤、吉岡ときれいにまとめる演技が続き、その流れを後押ししてくれるのでは、と期待が高まる。
彼の演技が始まった瞬間、ああ、後押しだなんて間違っていた、と思い知らされる。
後押しとか、そういう次元に彼はいなかった。一気に会場の空気を支配してしまうほどの演技。
足先、身体からにじみ出てくる美しさ。静かに、かつ壮大なつり輪。
このかっこよさは彼にしか出せないものだ、ああ、これが野々村選手だ、これが彼のもつ素晴らしさだと思わせてくれる。
会場中を引きつけた後に待つ着地、まさに視線を独り占めさせるかのように止める。
もちろんスコアも15.500という高得点。
つり輪で日本代表に選ばれた1位の山室選手に次いで種目別2位である。
しかも、0.05点差。
演技ひとつでこんなにも感動できる、これが体操の良さのひとつ。
そのままのいい流れで跳馬もこなすが、つり輪と同じく得意種目のひとつである平行棒では落下してしまう。
新しく入れたというバブサーでバーを掴み損ねたような、少し怖い落下だった。
背中が痛そうにしており、会場もざわつく。
しかし、演技続行を決め、最後までやりきる。
ひやっとする落下の直後だったが、着地は止める。
続く鉄棒にも出場し、とてもいい演技を見せた。
離れ技も高さがあり、バーを掴む位置もベスト。彼らしい綺麗な実施で着地も小さく1歩にまとめる。
 
 
試合終了後のインタビューでは「失敗が出てしまったのでこういう結果になった。
つり輪から跳馬まではいい出来だったが、新しく入れたバブサーで気持ちがそれてしまってミスしてしまった。
前半がとてもいい形でできたので、前に脚を出さないといけないところを、調子にのって上に出してしまったのがミスに繋がった。」
と自分の演技のどこがいけなかったのかをきちんと把握して答える姿は、驚くほど冷静だった。
怪我についても「背中は打ち身、指は軽く痛めたが、なんとか鉄棒はできた。大事には至らなくてよかった。」
と話しており、怖さのある落下だっただけに、少しほっとした。
冷静に見せる野々村選手だったが、その後の「実施は上手くいけば9点とれる自信はあった。バブサー以外はいい出来だった。」
という発言には静かに燃える熱いものを感じた。
今後については「全種目のDスコアを上げる予定。つり輪、跳馬、平行棒は世界でも戦える位置にいると思うので、
特にゆか、鉄棒を更に上げて、個人総合で世界選手権の代表を狙いたい。もし、個人総合で落ちてしまっても、
他のポイントでも狙えるように得意のつり輪と平行棒も更に上げていきたい。
『来年こそは』と何回言ってるかわからないけど、本当に来年こそは代表に入りたい。」
と最後の最後で熱い想いを語った。
                                <男子決勝②につづく>
 
PHOTO by Tatsuya OTSUKA   TEXT by umi