ユニバーシアード、日本女子は団体銀! 

ユニバーシアード、日本女子は団体銀! 

 

7月7日からロシア・カザンで開催されているユニバーシアード夏季大会で、まずは女子団体競技が行われた。

前回大会では団体優勝を成し遂げている日本チームには、連覇の期待もかかっていたが、近年、力をつけてきた

ロシアの壁は厚く、2位となった。

それでも、強敵であるドイツを上回ることはでき、選手達も力を出し切って満足そうな「笑顔の銀メダル」だったようだ。

 

そんな中、チームの柱として健闘したのが美濃部ゆう(日本女子大/朝日生命)だ。

4種目に出場し、平均台3位、段違い平行棒5位。個人総合では6位と団体銀に貢献した。

 

ユニバーシアードは、2年に一度開催される「学生のオリンピック」だが、2011年は中国・深センで行われた。

このときも美濃部は、日本代表として出場し、団体金のほか、種目別の段違い平行棒、平均台でも金メダルを獲得。

3冠を達成している。

 

翌年、2012年には、5月の五輪代表決定選考競技会で、ギリギリまで代表の座を新竹、鶴見らと争い、

北京五輪に続いて、2度目の五輪代表となる。

 

こうして書き連ねてみれば、まぎれもない「体操エリート」であり、素晴らしい実績をもった選手なのだ。

しかし、昨年、今年と主だった大会で私が見た美濃部ゆうは、その経歴とはうらはらにいつも少し悲観的に見えた。

悲観的は言いすぎかもしれないが、「結果を期待しすぎない」・・・そんな姿勢が見られるのだ。

結果的には世界選手権代表の座を射止めた先日の「全日本種目別」でも、彼女はじつに淡々と、

自分のやるべきこと、をやる! ただそれだけを考えている、という雰囲気だった。

今回の代表選考方法だと、少なくとも1種目は種目別優勝をしなければ、代表入りは厳しい、という状況だった。

 

そんな中で、美濃部は出場していない1種目目の跳馬で、村上茉愛が優勝。ゆかでも大きなミスがなければ優勝の可能性の高い村上の

代表入りをほぼ決定づける跳馬での優勝だった。2種目目の段違い平行棒には、美濃部も出場していた。ユニバーシアードでは

優勝もしている得意種目だけに、ここで決めたいという気持ちもあっただろうが、優勝したのは笹田夏実だった。

笹田は、残る平均台、ゆかも強い選手で、彼女の代表入りもほぼ決まったようなものだった。

世界選手権の女子代表の椅子は4つ。寺本明日香はすでに内定しており、村上、笹田が当確となると、実質、最後の1つしか

椅子は残っていない。そんな追い込まれた状況で、平均台8人目の演技者として美濃部は得意の平均台に向かった。

実施がよければ、平均台で優勝できる可能性は十分にあった。

しかし、この日は先に演技を終えた笹田、寺本も非常によい出来でともに13.850をマークしていた。

平均台で優勝できなければ、代表入りに黄色信号がともる美濃部にとって、この「13.850」は、かなりのプレッシャーでは

なかったかと思う。

果たして。

美濃部の平均台は、「よくぞここまで」と思えるほどに、すべての動きがコントロールされていた。

そう、1年前。あのロンドン五輪代表を勝ち取ったときの平均台と同じように、まるで失敗するかも、という不安などかけらもない

かのように、堂々としていて、攻める演技。これが美濃部の平均台だ! この土壇場でこれがやれるのが彼女なんだ!

そう、思える演技だった。

着地まで完璧に決めて、彼女は力強くガッツポーズを見せた。

「やった!」と言わんばかりの笑顔もはじけた。

このところ、私が気になっていた「悲観的な表情」はまったく見えなかった。

どんなギリギリの状況にあっても、あきらめず、挑戦する強いアスリートの顔を見せていた。

 

このときの平均台の得点は、14.150。

笹田、寺本を振り切り、見事に優勝。世界選手権代表の座をぐっと手元に引き寄せた。

この試合最後の種目・ゆかで、美濃部はトップバッターだった。

直前の平均台が最後の演技者だったため、やや慌ただしい感じになり、少し不利ではないかと思ったのだが、

そんなビハインドはものともしない強さがこの日の彼女にはあった。

 

平均台で思い通りの演技ができた! という充足感が、ゆかの演技まで

いきいきと輝かせているようにも見えるパーフェクトな演技で、13.500が出た。

後で登場する笹田と内山由綺には抜かれたが、ミスのあった村上を上回り、3位。

そして、世界選手権の代表の座も手に入れたのだ。

 

ロンドン五輪代表決定のとき、そして、今回も、私は彼女の精神的なタフさに感服した。

追い込まれたときのこの強さは、いったいどこで身につけたものなんだろう、とただただ感心してしまうのだ。

 

代表決定後のインタビューで、美濃部ゆうは、言った。

「プレッシャーはものすごく感じていましたが、とにかく練習とおりやろうと思って、演技に集中しました。」

そして、平均台の演技について聞かれると、

「いつものリズムでできたので。」と、短く答えた。

 

今の女子体操界は、高校生の台頭も著しく、思うこともたくさんあるのだろう。

追われる身のプレッシャーも半端なくあるだろう。それでも、美濃部は、自分のリズムを崩さない。

いや、崩さないようにコントロールしている。

おそらく、うまくコントロールできなかった苦い経験もたくさんしてきたんだろう。

だからこそ、今の彼女の強さがある。

 

ユニバーシアードもまだ種目別が残っている。

そして、9月には世界選手権も待っている。

 

本人もインタビューで言った

「世界でも、自分の演技ができるようにしたい」

という彼女の願いがかなうことを、私も期待したいと思う。

 

PHOTO by Tatsuya OTSUKA/Norikazu OKAMOTO  TEXT by Keiko  SHIINA