「体操王国・ニッポン」ならではの下剋上に沸いた全日本団体・種目別選手権

2012年11月2~3日に行われた、今年の最後の「全日本」と名のつく大会は、ある意味、五輪後の大会らしい展開となった。

五輪代表選手では、個人金メダリストの内村航平(KONAMI)が、故障のため種目別大会は欠場。山室光史(KONAMI)は、五輪のときの骨折のため欠場。団体・種目別ともに出場したのは田中和仁(徳洲会体操クラブ)、田中佑典(KONAMI)、加藤凌平(順天堂大学)だけだった。
女子でも、五輪代表選手の寺本明日香(レジックスポーツ)は、団体選手権の平均台のみの出場。新竹優子(羽衣国際大学)は、種目別の平均台のみの出場。美濃部ゆう(朝日生命)は、故障のため欠場し、田中理恵(日本体育大学研究員)も、種目別のゆかと段違い平行棒のみにしぼっての出場。団体・種目別ともに出場したのは鶴見虹子(日本体育大学)のみとなった。

そんな状況だけを見れば、「さびしい大会」だったのかと思われそうだが、そんなことはなかった。むしろ、五輪代表選手以外にも、こんなにも多くの素晴らしい選手がいるということが証明された収穫の多い大会だったと言えるのではないだろうか。

●順天堂大学が、10年ぶりの優勝! 
 ~団体選手権(男子)~
 


種目別欠場を余儀なくされるほどコンディションは悪かったとはいえ、内村は、団体選手権には4種目にエントリー。1種目目のゆかでは、軽々と15.600をマークし、KONAMIの連覇へのけん引役となるだろうと思われた。対抗馬と目されていたのは、五輪代表選手である加藤とその加藤に拮抗する力をもつ野々村笙吾(順天堂大学)を擁する順天堂大学で、KONAMIとは同じローテーションだった。ゆかでは、野々村にミスが出て14.000という苦しいスタートとなったが、続くあん馬で、順大は中出康平、今林開人、加藤がそろって素晴らしい演技を見せる。一方、KONAMIは、小林研也が落下を犯し、13.900とブレーキとなり順大の追い上げを許す。つり輪はどちらもよい演技の応酬だったが、跳馬ではKONAMIは、沖口誠が着地で手をつき14.950。順大は跳馬で今林、野々村が15点台後半の高得点を稼いでおり、この種目が終わった時点で、0.25差で順大がトップに立った。
平行棒ではどちらも大きなミスなく演技をまとめたが、加藤が15.700という高い得点をマークし、じわりと順大のリードを広げ、0.4差で最終種目鉄棒を迎えることになった。

鉄棒の試技順は、順大が先だった。トップバッター・石川大貴は、足先が美しいていねいな演技だったが、いかんせん離れ技は最低限にとどめた演技で、14.450という得点に留まる。この時点で、鉄棒のスペシャリスト3人(内村・田中佑・植松)を揃えたKONAMIの逆転優勝の可能性はぐんと高くなった。順大は野々村が15.500、加藤が15.100と健闘するが、6種目合計271.950は、KONAMIが鉄棒で45.450以上を出せば逆転可能という得点だった。鉄棒では16点台にのせる力もあるKONAMIの3選手にとって45.45は決してプレッシャーのかかる点差ではなかったはずだ。
実際、順大の試技が終わったあとのKONAMIの選手達のウォーミングアップには気負った様子はまるで見られなかった。淡々といつも通りに準備をしている、そんな様子に見えた。

KONAMIの一番手・内村の演技はいつも通り快調に進んでいった。離れ技もあぶなげなく決まっていたのだが、突然、内村の体が宙に浮き、落ちた。内村にとっては「過去に落ちた記憶がない」という伸身トカチェフでの落下。この演技で、まさかの14.000。残る2人は限りなく16点に近い得点を出さなければいけなくなった。勝負のかかった鉄棒では、苦い思いを何度もしてきている田中佑だが、このときは細かいミスはあったものの演技をまとめ、15.500をマークし、最後の植松鉱治に望みをつないだ。逆転優勝に必要な得点は、15.950。植松の鉄棒なら十分出し得る点数だ。植松の体が空を切り、演技序盤からダイナミックで難度の高い離れ技を3つ続けて決める。さらに、4つの目の離れ技も決まったか、と思った瞬間、バーをつかみそこねた植松の体はマットに沈み、順大の優勝が決定的になった。

表彰台の真ん中にのり、誇らしげな表情を見せた順大の選手達は、場内インタビューに応じて、それぞれの言葉で優勝の喜びを語った。
久永将太「順大は、加藤・野々村だけじゃないぞ、と見せたかったので嬉しいです。」
石川大貴「後半2種目だけの出場でしたが、みんなが失敗しないで安定した演技をしていたことが、自分の力になりました。」
加藤凌平「チーム戦で勝つのは、嬉しさが何倍にもなります。本当に嬉しいです。」
今林開人「優勝は目指していましたが、それは夢のようなものだったので、実際になってみると夢を見ているようです。」
野々村笙吾「自分は、このチームならいけると信じていました。」
中出康平「あん馬だけの出場だったので、そこで失敗したらどんな顔しようと思っていました。後輩達のおかげで優勝できました。ありがとう。」

●日本体育大学が、3連覇を達成! 
 ~団体選手権(女子)~

下剋上が起きた男子とはうらはらに、女子団体は、日本体育大学の3連覇で波乱なくおさまった。日体大は、1種目目の跳馬を安定した演技で乗り切ったが、段違い平行棒では、船木久弥、内村春日とミスが続き点を伸ばせなかったが、鶴見が15.350と2人のミスをカバーするだけの得点を獲得。平均台ではさらに差を広げ、ゆかでも大きなミスなく逃げ切った。
記者会見で、キャプテンの内村は、、
「自分は段違い平行棒で落下しましたが、チームの仲間がカバーしてくれました。チーム力で優勝できたと思います。自分自身もミスの出た段違い平行棒以外は、満足のいく演技ができました。キャプテンになって、チームを引っ張っていくことの難しさも感じましたが、力のない自分を周りが盛りたててくれて、最後のチーム戦を最高の形で終わることができて、チーム戦っていいな、と思いました。」と、終始満足そうな笑顔だった。
text by Keiko Shiina