ロンドン五輪体操予選(男子)

●体操ニッポンになにが起きたのか?

 ~男子団体予選の波乱

 

7月29日、男子体操団体予選のテレビ中継を見ていた人は、かなりのフラストレーションを感じたのではなかったか。

あれほど「団体金」を唱えていた日本チームが、1種目目の鉄棒で田中和、山室が落下こそは免れるが大きなミス。そして内村がまさかの落下、すると田中佑も落下とミスが続く。日本のお家芸とも言われ、ポイントを稼ぐ種目と期待されていた鉄棒での悪夢のようなスタートだった。

 

2種目目のゆかでも、田中和、山室と着地でのミスが出る。内村、加藤も着地でやや移動したところもあったが、なんとか高得点を獲得。少し持ち直したかと思われたが、続くあん馬では、田中和が落下、山室もややバランスを崩しかけたが、なんとか持ちこたえたものの、内村が落下1回のうえに、下り技も入れられず12点台という信じられないほど低い点数に終わる。加藤は、一瞬ひやりとしたところがあったものの、なんとか持ちこたえる。

 

前半3種目すべてトップバッターだった田中和が、すべてでミスを犯し、内村とともに個人総合にも期待が寄せられていた山室も3種目ともふがいない演技になってしまう。

そして、絶対視されていた内村までがミスを連発。

3種目終了時の得点では、後半持ち直さなければまさかの予選落ちもあり得るような最悪の状況だった。

 

ミスが出てしまっただけでなく、テレビの画面からも選手達の「違和感」のようなものが伝わってくる。昨年、東京で行われた世界選手権のときと違って会場中が同じ2班で演技しているアメリカに声援を送っているような雰囲気さえある。そんなことで動揺するような選手達ではないと思うのだが、自分達のミスに対しても、なにか「なんなんだろう?」と納得しきれていないような表情が見えていた。

 

後半の1種目目、つり輪で田中和、田中佑とよい演技が続き、得点も持ち直す。内村も、大きなミスなくまとめたが、実施が低めに抑えられ15点に届かない。つり輪の最後に登場した山室は、つり輪のスペシャリストで、目立ったミスもなかったが、これも15点に届かない。このとき、山室は明らかにがっくりしたような、言葉は悪いが「やってらんない」というような表情を見せていたように思う。

5種目目の跳馬で、田中和、加藤とうまくまとめて得点を稼ぎ、いい流れになりかけたが、つり輪での得点が響いたのか山室の跳馬は、開き直ったような勢いのあるよい跳躍だったが、勢いあまって着地で大きく後ろに下がり、ライン減点がついてしまった。内村も跳躍は美しくまとめ、着地もこらえて止めたが、ライン減点。

 

それでも、つり輪、跳馬で点数を稼ぎ、団体の順位もじわじわと上がってきてむかえた最終種目平行棒で、トップバッターの山室は、バーに足が乗ってしまうという珍しいミスが出て得点を伸ばせない。しかし、田中佑がすばらしい演技を見せ、内村も着地までしっかり決めて見せ、最後の田中和につなぐと、平行棒には定評のある田中和がやっと会心に近い演技を見せて、2班終了時点では、団体成績3位にまで上げることに成功した。

 

しかし、6種目に出場した内村は、鉄棒とあん馬で大きなミスを犯し、山室はつり輪以外の種目はすべて悪い面が出てしまった。田中和も、後半3種目はまとめ平行棒では2位にも入るすばらしい演技を見せたが、前半3種目がひどすぎた。結果、個人総合決勝には内村1人しか進出できないという予想外の事態を招いてしまう。個人総合の金の大本命といわれていた内村でさえ、終わってみれば9位という信じられない予選通過順位となってしまった。

 

終了後のインタビューを聞いても、内村も「なにがなんだか」という様子だったし、田中和も反省しきりだった。さすがの内村も「応援してくれている人に申し訳ない」と殊勝ではあったが、「なぜこうなったのか」はわからない、としか言えないようだった。

内村も人の子、やはりプレッシャーがあったのか? とも思ったが、どうもそれだけではないようだ。

器具の仕様変更。それも、日本ではまだ新しい規格の器具が手に入らず、選手たちは、ロンドン五輪仕様の器具を使ったのは、ロンドンに入ってからやっとだったというのだ。そう言えば、競技開始前のポディウムでは内村が珍しく落下していたと報じられていた。そのときは、内村は「いいとこを見せようとしすぎた」と語っていたが、本当にそれだけだったのだろうか。「器具の勝手が違ってやりにくい」などという言い訳にも聞こえるようなことを言いたくはなかっただろうが、体操の高度な技は極めて微妙なタイミング、感覚に負う部分が大きい。違いはあっても調整できるのも能力のうちではあるが、それにしても、その調整が間に合わないくらいの違いがあったのだとしたら?

 

彼らは器具のことには言及していないが、自分だけに起因するミスがああも続いたのであれば、もっと違う表情になったのではなかったかと思うのだ。昨年の世界選手権で、決定的な場面でミスをした田中佑の表情は、今回のものとはまったく違っていた。

なにか、自分が不甲斐ないというだけではない、やりきれなさを抱えているのではないか。そんな気がしたのだが、考えすぎだろうか。

 

あと数時間で、団体決勝が始まる。

 

予選の得点は持ち越されないので、また1からスタートできる。

ローテーションは、つり輪スタートで、ラストがあん馬という、悲願の団体優勝を決めるには盛り上がりには欠けるものになってしまったが、そんなことは大きな問題ではない。

予選を1位通過して、最終種目が得意な鉄棒。そこで追い上げてフィニッシュ! というのが美しいシナリオではあっただろうが、苦手なあん馬を必死に乗りきることでメダルをもぎとる! というのも悪くない。

それが金メダルなら、なおさらだが。

 

いずれにしても、ここまで追い込まれた戦いは、ここ数年経験していない日本の体操男子! ここで底力を、見せてくれることを期待したい。

余裕で勝つのはかっこいいし、頼もしいが、必死の形相で、かっこよさをかなぐり捨ててでも、勝ちにしがみつく姿にこそ、心を打たれることもある。

 

期待していた展開とは違ってしまったかもしれない。

だけど、この逆境だからこそ、生まれる感動があるかもしれない。

 

そう期待して、団体決勝を見届けたい。

text by Keiko SHIINA.

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